第95話コロッケ

「ミ、ミラお嬢様…」


メイドは驚いてしゃがみこむと


「もちろんミラお嬢様の思う通りでいいんですよ!でもパッドさんはほら顔が怖いですから何かされたらすぐに言ってくださいね!」


「おい!何もしねぇよ!」


パッドさんが慌てて答えると


「ありがとうございます。でもパッドさんも優しいから大丈夫です」


「も?」


「あっ…私の知ってるコックさんです。パッドさんの雰囲気が似てるから嬉しくて…だからその人と同じようにミラって呼んで欲しいな…って」


駄目かな?


ミラは二人を見つめると…


「パッドさん!」


メイドさんが怒鳴ると


「な、なんだ…」


「今すぐミラお嬢様を呼び捨てに呼んで上げてください!」


「わ、わかった…ミラよろしくな」


パッドさんが伺いながら答えるとミラは二人のやり取りに嬉しそうに笑った。


「それにしてもいい香りですね…これはもしかしておやつで出るんですか?」


メイドさんが先程から揚げたてのコロッケをチラチラと見ている。


「そうだな、試しに作っただけだから…どうだ?今味見してみるか?」


パッドさんが二人を見ると


「はい!」


「うん!」


メイドさんとミラが同時に答えた。


「全くカナリアは食いじがはってるなぁ」


パッドさんが笑いながらコロッケを一人一枚皿に乗せる。


「熱いから気をつけろよ」


ミラは受け取ると久しぶりのコロッケを見つめた。


最初で最後のご馳走になっちゃったなぁ…ビオスさんはまたみんなに作ってるかな?


ミラはあの時作ったのよりもはるかに上手に出来たコロッケを見つめていた。


「はふっ!はっふ!」


すると横で興奮したカナリアさんが熱々のコロッケを口にほうばって地団駄を踏んでいる。


その様子をパッドさんと唖然と見ていると


「ど、どうしたカナリア?そんなに熱かったのか?」


パッドさんが水を用意すると…それを慌てて貰いごくごくと凄い勢いで飲んでいる。


「ぷはぁー!」


カナリアは大きな息を吐くと


「なんですかこれ!凄い凄い美味しいです!外はサクサクで中はホクホク…何枚でも食べられます…」


そう言って残りのコロッケをじっと見つめると…


「ば、馬鹿!これは他の奴らの分だ!一人一枚だぞ!」


パッドさんはカナリアからコロッケを隠すと


「そんなに美味いのか…」


自分も気をつけながらパクッと一口かじりついた。


ミラも二人にならってガブッと食べると


「あっ…」


収容所で食べた時よりはるかに美味しいコロッケだった…


ポロ…


ミラは目から何かが零れた…


「ミラ!」


「ミラ様!」


パッドとカナリアが驚いてミラに駆け寄ると


「なぁに?どうかした?」


ミラは二人を見つめると


「お前…涙が…」


「えっ?」


ミラは顔を触ると確かに頬が濡れている。


「あれ?おかしいな」


ミラは涙を拭うと


「あんまりにも美味しく出来たからびっくりしちゃったのかも!」


ミラはニコッと笑って答えた。

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