第2話メアリー
イーサンはメアリーの遺体を持って屋敷に帰ることなくある場所に向かう。
屋敷とは真逆の方向に馬を走らせたしばらく行くと一軒の小屋からの明かりが見えてきた。
イーサンは馬から降りてメアリーの遺体を降ろし小屋に前に立つと声をかける。
「ゾーイ様…」
雨の音で掻き消えそうな声にも関わらず扉はスっと開くと…
「イーサン…久しぶりだね」
一人の老婆が顔を出した。
「ご無沙汰しております…」
イーサンが頭を下げると
「こんな雨の中どうした?」
聞きながら腕でに抱きかかえる薄汚れた袋を見つめる。
「メアリー様です…」
イーサンの済まなさそうな顔を見上げてゾーイはもう一度袋を見ると、そっと袋に手を置いた…
「そうか…メアリー死んだのか…」
ゾーイは袋をギュッと握りしめると…
「辛かったろう…悲しかったろう…悔しかったろう…お前をこんな姿にした奴らを許すことが出来なそうだ…」
ゾーイの瞳から涙が流れるとポロッと袋に落ちた。
「それは…私もです…メアリー様が無実の罪で捕まったのに何もする事が出来ませんでした…しかもいまだにその男の元で働いております」
深々と頭を下げると
「どうかメアリー様を安らかに埋葬した後…私にそれ相応の罰をお与えください」
ゾーイは顔をあげると
「メアリーはきっとそんなこと望んじゃいないよ…あの子は優しい子だからね」
「よく存じております。あの日…私がメアリー様を見つけたばっかりにジェイコブに目をつけられ…まさか仕えていた当主があんな男だとは思いもしませんでした」
「本性ってのは隠すもんさ、隠すのが上手ければ上手いほどその闇は深い…」
「未熟な私はその闇に気づけませんでした…そのせいでメアリー様は…」
ギュッと服を握ると…
「顔を見せてもらおうかな…」
ゾーイが言うとベッドを指し示す、イーサンは頷いて袋をベッドに置いて開いた。
袋を開けると中からは…無惨な姿のメアリーの遺体があった…綺麗な栗色の髪はベタベタに薄汚れ、所々塊になっている。
顔はげっそりと痩けてやせ細り、白く美しかった肌は見る影もなかった。
服と言うよりはただの布のようなものを身にまとい…赤黒い汚れが何ヶ所にもシミを作っている…特に酷いのは下半身で股の間からじんわりとシミが広がっていた…
「酷い…」
イーサンはサッと顔を逸らすがゾーイはメアリーをじっと見つめる。
「この汚れはなんだい…まるで赤子を産み落としたような…」
メアリーの下半身から伸びる管のような物を見つめてゾーイは体を震わせる。
「看守が言っておりました…メアリー様は赤子を身ごもり、産み落としたことで死に至ったと…」
「子を…メアリーは子を授かっていたのか…相手は!?」
イーサンは首を振ると
「わかりません…私も知らされておりませんでした」
「まさかあの屋敷の奴らでは…」
一番不快な奴らの顔を思い浮かべゾーイは手を握りしめる。
「それは…無いかと、メアリー様はジェイコブや息子のランドンに迫られた事で拒否してあの収容所に入れられましたから…」
「では誰の?」
「わかりませんが看守が収容所の中で…とも言っておりました…」
言いたくない言葉を口にして顔を顰める…そんなことがあったとしたらメアリー様が哀れすぎるとイーサンは目をつぶった。
「それでメアリーの子は?」
ゾーイが聞くので看守の話を伝えると
「どうにか金を工面してメアリー様のお子様を引き取ります…せめて一緒の墓で眠らせて差し上げたい」
イーサンの言葉にゾーイは力なく膝をついた。
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