そのゲームの正体

 ゲームをプレイして気づいたこと、それはこのゲームの舞台だった。SNS上では、東京であると明言されていたのだが……。


 実際の舞台は東京ではなかったのである。ストーリーモードでも『拡張都市・蒼風』と書かれており、東京とは何処にも書かれていない。


 それに加え、都市に関してもモデルはあるかもしれないが立て看板などは架空の店舗名に加えて、フィクションであることがこれでもかと詰め込まれていた。


「ネットの噂と違う? 一体、何がどうなっているの」


 大半のゲーマーがストーリーモードをプレイしていないこともあってか、憶測などをまとめサイトが炎上目的で拡散していたと言える。


 それ位にストーリーモードをプレイしていく内に、様々な事実が浮き彫りになっていった。


 ストーリーをプレイしなくても、一通りのレースをプレイできるため、半数近いプレイヤーはフリーモードや他のプレイヤーと対戦できるオンラインにいる事が多い。


 解禁要素も一部のアバターアクセサリーやカスタマイズガジェット位で、普通にオンライン対戦をメインにしたい人はストーリーを飛ばして進めることがメインとなっている。


 つまり、あのストーリーを具体的に知っているのはムービーなどを飛ばさずに見ているごく一部だけと言えるかもしれない。ソーシャルゲームでもストーリーは興味あるものだけチェックし、他を飛ばすユーザーはいるだろう。つまり……。



 それから数時間後、彼女はどうするべきか悩む。この状況をどう説明するべきなのか、と。


 ストーリーを全く知らないようなユーザーが勝手にゲームの内容をまとめ、それがSNSで炎上していたという事実……。


 まるでゲーム未プレイのユーザーが書いたような二次創作のキャラ萌え、もしくはキャラ語り、あるいはカップリング同調者求む的夢小説ではないか。


 こうした記事が拡散し、本来のプレイヤーを遠ざけているとしたら……彼女は、何としてもこうした二次創作ともいえるようなSNS炎上を何とかしようと決めた。


 それこそ、彼らのやっていることは『バズり』目的で炎上させている。こうした誤った情報が拡散するのは、何としても止めないといけないだろう。


(彼らのやっていることは、SNSを戦場とした世界大戦だ……。まさに、このストーリーモードと同じ……?)


 ゲーム中では『秘密結社』としか書かれておらず、モチーフベースなどは不明なのに……リアルのSNSで彼らがやっているのは秘密結社のそれと変わらない。


 まるで、ゲーム中のフィクションをリアルで現実化させようという動きを思わせる。アニメ化とか書籍化などをすっ飛ばし、現実の世界で同じ事件を起こそうというのか?


「やはり、このまま放置しておくには……」


 彼女がそれでも一連の行動に躊躇ちゅうちょしていたのには理由がある。それは、彼女がSNS上で『バズる』危険性があったからだ。


 自分はあくまでも誰にも『バズる』ことなくゲームをプレイしたいのだ。レビューサイト等といったようなものもチェックせず、純粋にゲームを楽しみたい……。


 それこそ実況配信などで利益を得ている動画投稿者や実況者もいるだろうが、彼女はそうした勢力とは距離を置きたいと考えているのだ。


 自分はあくまでも純粋にゲームを楽しみ、他者の後追いをせずに流行も関係なくゲームをプレイしたい……それが、彼女にとっての日常である。


 流行に流され、それこそ『バズる』事を目的にゲームをプレイしたら、それは彼女にとって非日常の光景なのだ。


 ゲームをプレイすることを仕事とするプロゲーマーのような存在は把握し、彼らは肯定したとしても……単純に『バズる』事を目的にゲームをプレイするのは、日常の光景とは言えない。


 それこそ、SNS上で『新日常系』と例えられるような光景、それが彼女の考えている『バズる』という事だった。



 結局、この段階では彼女は何も発言することはできなかった。下手に発言し、SNSを炎上させては同類と思われると思ったからである。


 それからいくつかのサイトを巡り、彼女はある記事を発見した。様々なプレイヤーがリアルフィールドを走る光景だったのである。


 パルクールが元々はリアルフィールドで行われるスポーツの一環なので、これは無関係な記事だろう……とスルー仕掛けたが、ある一文が彼女の目を止めた。


「パルクール・ブレイブを再現……? まさか、ね」


 記事内の写真を見る限りでは、実際にゲーム中で見かけるようなパワードスーツのような重武装ではないが、軽装型に近いコスプレイヤーの写真もある。


 リアルでやるには設備も必要だろう……と考えていた彼女なのだが、何かが引っ掛かった。


 確かにコスプレイヤーといえなくもないのだが、明らかにそう断言するにはあのゲームのアバターコスチュームは無理がある。


 肌色箇所が多いコスチュームこそ存在はしない一方で、あの服装のままで出歩けば警察に見つかったと同時にアウトだろう。


 あの独特のコスチュームをコスプレするコスプレイヤーがいても、今のご時世だと自宅でスタジオを持っているようなコスプレイヤーに限られる。


(何か見落としでもあるのだろうか……)


 記事の内容を再確認し、他の画像もフェイクや『バズり』目的のコラ画像ではないのは分かった。


 しかし、それでもゲームを忠実に再現したようなフィールドが本当にあるのか?


「行ってみるしか、ないのか」


 事実を確かめるため、彼女は覚悟を決めることにする。向かう場所は埼玉県草加市、このご時世で不要不急の外出は『自粛警察』の餌食になるのは目に見えているのだが……。


「行かなくても別の手段で……!」


 別のサイトを検索した結果、ある人物の存在を発見、その人物にコンタクトを取ればなんとかなるのではないか、と思った。


 その人物の名前はシオン、SNS上では中堅のプロゲーマーと言われているが……その一方で、様々な噂が絶えない。

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