よく見なくても敵しかいない


 手に意識を集中させ、心の中で聖剣を呼ぶと

 黒い魔力の渦が目の前に現れる。

 それを見た赤牛頭レッドミノタウロスが本能なのか警戒して一歩下がる。

 ガーゴイル達も帝国兵を襲うのを止めて俺から距離をとる。その際に桜花に何体か斬り捨てられた。


 魔力の渦の中に右手を入れると、懐かしい感触が手に触れる、それを掴んで引き抜い……


(……る…ん)


 っ?!何だ? 一瞬だが何かが俺の腕に、そして同時に声が聞こえた…。


 引き抜いた右手には黒い靄のかかった一本の剣がしっかり握られている。 一体何が…。



 俺の様子に魔物達が警戒を強める、帝国兵達はガーゴイルが離れたお陰で、なんとか体制を立て直したようだ。 帝国勇者オルファンは俺の剣を見て青い顔をして震えている。

 何だ? …気になる反応だが今はそれどころじゃないか。


 異変を感じとった桜花が近寄ってきた。


「どうした …何があった?」


「……いや、何でもない」


 どう説明すればいいか分からないし。

 聖剣を召喚しようとしたら、いきなり腕を触られた…なんて何ホラーなんだ。


 痺れを切らしたのか赤牛頭レッドミノタウロスが咆哮しながら巨大な戦斧を振りおろす、それを俺と桜花は後ろに飛んで避ける。


 もの凄い音がなり地面に大きなクレーターを作る、砕けて飛び散った岩なんかで帝国兵に少なくない被害がでている。


 見た通りのパワーそして


 間髪入れず距離を詰めてから姿勢を低くくして戦斧を横に薙いだ。それを飛んで回避すると、空中の俺を掴もうと腕を伸ばしてくる。


 剣を振るうも浅い傷がつく、そのまま掴まれる寸前で、赤牛頭レッドミノタウロスの手首から先を桜花が斬り落とす。


 なんとか着地して


「っと、すまん、助かった」


「油断するな、次がくる」


 頭牛頭レッドミノタウロスが手首を落とされた怒りからか、先程より大きな咆哮をあげる。 帝国兵や帝国勇者オルファン、ガーゴイル達も恐怖で動けずにいる。


 俺が赤牛頭レッドミノタウロスの右へ回り込むと同時に、桜花が左側へ走る。挟みこもうとしたのを察したのか、今度は頭牛頭レッドミノタウロスが後ろへ飛び退く……が、俺は全力で距離を離そうとした赤牛頭レッドミノタウロスへ走り、着地する寸前でスライディングで後ろへ滑り込む。

 振り向き様に脚を斬りつけて、バランスを崩し倒れる寸前に赤牛頭レッドミノタウロスの首を跳ねる。


 動かなくなった赤牛頭レッドミノタウロスから目を離すと、桜花が離れた所でガーゴイルの最後の一体を、縦から真っ二つにしていた。


 桜花は左右に分かれてから、そのままガーゴイル達に向かって行っていた。


 魔法陣から召喚された魔物達を全滅させてから周りを見ると、帝国兵達もかなり巻き添えを食らってたみたいで、最初の十分の一も残っていなかった。 その残った一割も殆ど戦意を喪失していて、真面に立っている奴は俺に憎々しい視線を送る帝国勇者オルファンのみ。


 さて、コイツには色々聞かなければならない。

 桜花に未だにテントから出てこないのか、姿を表さない帝国王子を探しに行ってもらった。


 ………どさくさ紛れて逃げられたりして。


 まあ、そうなったら鬼ごっこするしかないな…捕まったら死ぬやつ。


「何を聞かされていたかは知らないが、魔物達が使役できると思っていたなら、大きな間違いだぞ。 アイツ等は誰にも従わない、例え魔王にもな」


「……どいつもこいつも」


「…なんだ?」


 帝国勇者オルファンは肩を震わせながらそう呟く。


「いい加減にしろよクソ共が! 第三王子ロリコン野郎帝国兵役立たずもクソ魔族もテメェらも! クソばかりだ!ふざけやがって!」


 突然人が変わったようにキレる帝国勇者オルファン、先程までの慇懃無礼な振る舞いは何処にいったのやら。


 …ま、どうでもいいか。


「興奮してる所悪いんだ……が?」


 ふと、聖剣を握っている右手に何かが触れる。


 ……な、何だこの感触は…


 もの凄いプレッシャーを感じる、目の前に居る帝国勇者オルファンなんかとは比べ物にならない、いや、先程の赤牛頭レッドミノタウロスも相手にならない程の。


 俺は恐る恐る自分の右手を見ると…




 俺の手を握っている、犬を抱いた少女と目が合った。


「え……あか…ね?」




 ――――――――――


(ある意味)異世界ホラー


 最近デレデレの方も夜に更新します(フラグ)






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