手紙
玉崎蓮
手紙
カノジョが自殺した。いや、御託はよそう。あの手紙を読めばわかる。カノジョを、彼女を自殺に追いやったのは間違いなく僕だった。そんな、どうしようもない僕の話をしよう。
◆
僕は、クラスのとある女子と付き合っていた。小学校の時からの友達だった。同じ高校に入学が決まったその日に告白して、オーケーをもらった。
そして僕たちは高校に入学する。そして僕らの長いようで短かった一年が始まる。その年は何もかもが楽しかった。二人で街に出かけたり、映画を見たり、海に行ったり、イルミネーションを見に行ったり、とにかくいろんな場所に出かけた。
そして、高校二年に上がってから、彼女は学校に次第に来なくなっていった。僕は心配だったから毎日彼女の家にプリントを届けて、大丈夫かどうか聞いた。そうすると、彼女は決まって大丈夫だと笑った。彼女は覇気がなくどこか無理して笑っていたように感じる。遊びに誘ってもごめんと言われるだけになっていた。そんな感じが数ヶ月続き、ある日言われた。もう来なくていいよ、と。僕は納得できなくて毎日彼女の家を訪れ続けた。彼女の発言もあったから、家を近くから眺める程度にしていた。今にして思えば、それも良くなかったのかもしれない。
そしてある日唐突に、彼女は自殺した。部屋で首を吊ったらしい。遺書は残っていなかったから、きっかけはわからずじまいだった。幸運なことと言っていいかはわからないが、僕は彼女のお葬式に呼ばれた。葬式の始まる直前、彼女のお母さんと話をした。しかし彼女は親にすら登校しない理由を話さなかったらしく、逆に彼女のお母さんに質問攻めにされてしまった。葬式が終わるとすぐに僕は帰らせられた。家に着く頃にはもう日は沈んでいて真っ暗だった。僕は晩御飯も食べずに布団に入って寝た。
◆◆
翌朝、僕はどんよりと重い雲を眺めながら登校した。先生からいろいろな話があったかもしれないが全く頭に入ってこなかった。彼女のことをずっと考えて、気がつけば今日の授業は終わり、教室には僕一人だけが忘れられていた。無気力ながらもなんとか席を立ち帰途に立つ。空は朝のまんまどんより重かっった。今にも雨が降り出しそうだが、結局雨は降らなかった。
その夜母さんが慌てて僕のところに一枚の封筒を持ってきた。その宛先は僕だった。そして送り主のところには彼女の名前があった。不謹慎かもしれないが、死んだ彼女からの手紙など、ドラマでしか見たことなかったから、少し興奮してしまった。
◆◆◆
その手紙を読んで、僕は今までの自分を呪った。彼女の自殺の原因は僕にあったのだ。告白いた時のことも、彼女と出かけたことも、葬式で彼女の母と話したことも、ドラマチックな手紙の届き方も全てを忘れるくらい衝撃を受け、僕は自分のことが心底嫌いになった。
その手紙の内容がこれだ。
『この手紙が届いている頃には、私は死んでしまっていることでしょう。先に言っておきますが手紙はあなた以外には送っていません。この手紙を読んだ後、この手紙をどうするか、どう行動するかはあなたに任せますが、あなたにしか送っていないことをよく考えて行動してください。
さて、堅苦しい言葉を使うのはここまで!どこから話すかな…そうだね。うん、まずは自殺する理由からだね。君は自覚がなかったかもしれないけど、実は君、ものすごく女子に人気なんだよ?だからね、私のことをよく思ってない、君のカノジョは自分の方がふさわしいって言ってる子もいっぱいいたんだよ。それで、明確に何かを隠されたとかはなかったんだけど、よく悪口を言われて陰口が言われているのも聞いたことがあって。それよりも酷かったのは女子トイレで他学年の女子も混ざってみんなでいろんな悪口を言われた。で、もし先生とか親とか、特に君に相談するなら捏造の写真をネットに流すって脅されてたんだ。それでまあ、原因もあれだからことあるごとに「別れろ。」って言われたんだ。でもね、私は君といる時間が何より楽しかったし、何より君の悲しむ顔が見たくなかったんだ。だから君と別れたくなかった。でもいじめられるのは嫌。だから、こうやって自殺することに決めたの。
だけど、君は優しいからさ。この手紙がないと、きっと自分のことを責めちゃって君も自殺してしまうんじゃないかなと思って、この手紙を書いたんだ。
私は、君のカノジョになれて幸せだったよ。君は絶対に私を追ってこないでね。約束だよ。でないと、私がこの手紙を書いた意味がなくなっちゃうからさ。それに、君には寿命が終わるまでは生きていて欲しいんだ。天国から見てるからさ。残りの人生を楽しんで!それじゃ、またね。
あなたの最愛の人より 』
手紙は所々に涙の跡があった。知らなかった。彼女がいじめられているのを。しかも僕が原因で、しかも一番最初に気付かなきゃいけなかった僕が全く気付けずに彼女を追い詰め、そして彼女は、この世を去ってしまった。
◆◆◆◆
そして、この手紙を読んでよくわかった。僕は結局、女の子と、カノジョと、彼女と付き合うことの表面的な部分を楽しんでただけだったんだと。僕はカノジョの心に寄り添わずに自分のやりたい楽しい部分だけを掠め取っていただけの卑怯者だった。でも、もう彼女はいない。そして、僕はこれからも生きていかなきゃならない。それが彼女との最後の約束だから。
気がつくと、僕の頬と窓を水が伝っていた。気がつけば、外ではシトシトと雨が降っていた。そして、今日流したこの涙は一生忘れない、いや、忘れてはいけない。僕が死んでしまうその日まで。
翌日、学校へ行くと昨日のクラスの辛気臭さは嘘みたいに、騒がしい教室が僕のことを待っていた。僕は、まだ彼女の死を受け入れきれない。でもだからと言って学校を休んで現実から逃避するわけにはいかない。前に進み続けるために。
◇◇◇◇◇
それ以来、その手紙は肌身離さずにずっと持ち歩き続けている。きっと、墓場にも持っていくんだろう。辛いことから、忘れてはいけないことから、一瞬だって目を背けないようにするために。彼女という存在を忘れないために。
手紙 玉崎蓮 @rentamasak1
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