目が覚めたんだよ
はあはあはあ
雨の中、幼いき日のバーストが貧民街を走っている。
傘をさして道路を横幅一杯に歩くは貧民街の孤児たちを取り仕切るダンテック。
「おい、ダンテック! お前レイナをどうした!」
「あ!? あの小娘かお前が上納金を収めないから代わりに代償で払ってもらったぜ」
「どういう事だ?」
「吸血奴隷として売っぱらったんだよ! いい値で売れたぜ」
ひゃーーはっはっはっは
ダンテックは取り巻きたちと共に笑う。
レイナを売った? 吸血奴隷に?
バーストは頭が真っ白になる。
状況は絶望的だった。吸血奴隷にされて吸血鬼王国に連れて行かれたらほぼ助からない。
「ふざけるな!」
バーストはダンテックに殴りかかるが、取り巻きに阻まれ、
ドカッ! バキッ!
返り討ちにあいぼこぼこにされる。
「これで分かっただろう。俺に逆らうとどうなるか。上納金が遅れるとどうなるか。今月分はいいわ。お前の妹が良い値で売れたからな!」
「くそーー! 返せー! レイナを! レイナは俺の全てなんだ!」
「ああ、戻ってきたら返してやるよ。まあその時には死体となってるだろうがな!」
ひゃーーはっはっはっは
バーストが地面に這いつくばっている中、ダンテックは取り巻きたちと共に笑いながら去っていった。
棺桶の中に入っているのは真っ白で冷たくなったレイナ。
レイナは戻ってきた。遺体として。
「ゔっ……ゔっゔー! ゔっゔー!」
バーストはその傍らで泣き崩れている。
俺が弱いからレイナは死んだ。
俺が兄ちゃんとして情けないからレイナは死んだ。
俺がダンテックたちに勝てないからレイナは死んだ。
強くならなければ! 強くならなければ! 強くならなければ!!
それからバーストは執念で死に物狂いで自分を鍛えた。
二度と負けないように。
二度と大切なものが奪われないように。
そしてその後、かつての元締めのダンテックとその取り巻きたちは葬った。
しかし、いつしか、妹を亡くしたという辛すぎるトラウマはバーストからその記憶を無意識に封印していった。
***
スクリーンが切れる。
「どうだ真実を知ってみて」
吸血鬼が人格の俺が問いかける。
俺の頬には涙がつたっていた。
俺は強くなろうとして。
実際に強くなって。
何者かになろうとしていたが。
本当に大切な事を記憶の彼方に封印してしまっていた。
結局は過去に砂をかけて隠していただけなのだ。
自分が弱かったという事実を。
そしてそれによって妹を亡くしてしまったという事実を。
俺自身、強者になる事へなぜここまでの熱情があるのかわからなかったが。
今ようやく分かった。
俺は強くなろうとして実際には過去から逃げていたんだ。
◇
バーストはブラックアウトから目が覚める。
頬には涙がつたっていた。
目の前には赤ちゃん皇帝ケイン。
そして…………
「涙……大丈夫? お兄ちゃん」
ユウナという少女がいた。
その姿がレイナと重なり、俺は思わず抱きしめる。
「ゔっゔっゔー」
堪えきれずに涙が溢れ出る。
ごめん! レイナ守れなくて。
辛かっただろう。
怖かっただろう。
寂しかっただろう。
痛かっただろう。
結局助け出せずにごめん。
ごめんな。
ひとしきり泣いた後、
バーストの脳裏にレイナが戻ってきた時の情景を思い出す。
レイナが真っ白な遺体となって返ってきた時。
その首筋には吸血鬼と思われる歯形の吸血跡がはっきりとついていた事を。
「ちょっと向こう、あのお姉ちゃんの所にいっとけるか?」
落ち着いたバーストはユウナを優しくハイエルフの所へ導く、そして。
「ケイン皇帝、俺に女王とやらせてくれないか?」
「どうした? 心を入れ替えたのか?」
「いや、目が覚めたんだよ」
俺のその言葉に小さく微笑みながらケインは後方へと下がっていった。
そうするとそれまで繭に包まれて脈打っていた女王はそれを突然破り、段々と巨大化していった。
その体は女王の間の天井でも高さが足らず、天井をぶち破り、城の上部を破壊し吹き飛ばす形となった。
元女王だったその巨体は手が四本、目が九つほどあり、筋骨隆々の化け物となっている。
顔の額部分に女王の上半身が突き出ており、女王の上半身と化け物の額部分が繋がっているような形になっている。
「素晴らしい! さすがは邪神様だ。妾がなんの勝算もなく、人間たちに戦争を仕掛けるとでも? 邪神の加護を受け、数百年の間、力を蓄え続けてきた。トカゲもろとも人間どもも皆殺しにして闇の世界を作ってくれるわ!」
グォオオオオオッ!!
化け物はその口から凄まじい咆哮を上げた。
(レイナ天国で見ててくれ。今度は勝つ。そして今度はあの子ユウナを助ける)
バーストは両手に持った短剣に祈る。
過去からの惜別、そして、そのトラウマを乗り越える為。
未熟だった自分を乗り越え、頼れる兄であることを証明する為。
彼の全身全霊、全てを掛けた戦いの火蓋が今切って落とされた。
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