封印された記憶
「おいおい、随分と熱くなってるがまだまだこれからだぞ?」
俺が煽りを入れると、
「バースト!」
女王は確か俺が前に戦った少年の名を呼んだ。
少年はすぐにその姿を表す。
その目は白目部分がなくなり真っ黒になっている。
驚いた、吸血鬼にまで成り下がったのか。
「バースト、しばらくこの家畜の相手をしておれ。妾は変化する」
変化?
「おい! 負けそうになったら逃げるのか? 逃げるなら、家畜に負ける雑魚でごめんなさい! って謝ってからにしろ! まあ逃がさないけどな」
俺のその煽りに女王はキッっと睨みを向けるが「フン」と言って自身を抱きかかえるような姿勢でその場に座り込んだ。何をしている?
と思っていると、
ガキン!
吸血鬼の少年バーストから攻撃を受けたので魔法剣で防いだ。
「少女を誘拐したと思ったら吸血鬼にまで成り下がったのか。少年ながら救いようがない野郎だな」
「吸血鬼に成り下がったのではない。至高なる高みへと登ったんだ。俺も今では吸血鬼のセカンド。この前の借りを返してやるよ」
そう言ってバーストは両手短剣を構える。
俺は横目で女王も確認しているが、なんだありゃ? 女王から糸のようなものが出てきたと思ったらその糸で包まれ繭のようになっている。肉体生成を変えているのか?
「お兄ちゃん!」
そこに突然小さな女の子の声であろう声が響き渡る。
俺はそちらに目を向けるとそこには幼い少女とその少女と手を繋ぐハイエルフのフェリーニだった。
「フェリーニ?」
「久しぶりねグラード。今はケインだっけ?」
「お前どうしてこんな所に?」
「話せば長いんだけどね。まあ簡単にいうとこの子の仮の保護者みたいなものよ」
その幼い少女は確かユウナだったはず
よかった無事だったのか。
ただバーストに向かってお兄ちゃんとは?
「ユウナちゃんはバーストと知り合いか?」
「ユウナちゃんじゃない!」
「え? 何で?」
「ユウナの方がお姉さんだからユウナお姉さん!」
まあ確かに肉体年齢はユウナの方が年上だが。
フェリーニは横でニヤニヤしている。
俺は苦笑いしながら、
「ユウナお姉ちゃんはバーストと知り合いか?」
「うん! この前、ゴミ捨て山で会ったの!」
なるほどこの子、バーストに誘拐された事を把握してないのか。
そこでバーストの方へ目を戻すとバーストが何か頭を抱えていた。
どうしたんだ?
◇
何もない平面世界。
ここはバーストの心的世界。
「ちっ良いとこだってのになんだってんだ!」
バーストの吸血鬼の人格が毒づく。
「あの子が俺のことをお兄ちゃんだって言った後に急に頭が痛くなって」
バーストが答えた。
「……そうなった理由が知りたいか?」
「分かるのか?」
「ああ、だが本当に知りたいか? それはお前が耐えきれずに無意識に蓋をしたものだぞ」
バーストは少し躊躇したのち、頷いて同意した。
バーストの吸血鬼人格は無表情に何か操作を行い、平面世界にいきなりスクリーンが現れ、そこに映像が映し出される。
そこに写っているのは……幼い日のバースト自身だった。
***
「おい! バースト! お前今月の上納金はどうしたんだよ」
バーストに尋ねるは当時の貧民街のボスのダンテック。
「まだ稼げれてなくて」
バキッ!
バーストは一発殴られる。
「3日以内に集めて持ってこい。そうしないと……分かってるな」
そういうとダンテックは取り巻き連中を引き連れてその場から去っていった。
バーストは殴られた箇所の出血を拭いながら、
「ちっクソ野郎が!」
と呟いた。
貧しい貧民街の中でも搾取がされる。
貧民街は治外法権に近い為、もっとも搾取がひどいかもしれない。
バーストは主にゴミ山漁りで収入を得ていたが今月の上納金に残り50ギルほど足りなかった。
少し歩いていると、
「お兄ちゃん」
とバーストは声をかけられる。
バーストが振り返るとそこには幼い少女が。
「レイナ、ゴミ山にいいのあったか?」
「うん! 水晶見つけた! ほら見て!」
レイナはバーストに水晶のカケラを見せる。
中々の大きさで普通に売れそうだった。
「でかしたレイナ! これは普通に売れるぞ!」
バーストはレイナを褒めてその頭を撫でる。
へへへっとレイナはそれに喜んだ。
「今日はレイナが好きなあの店のパン買うか!」
「やった! 丸くて硬くて大きいパン!」
それはパン屋で一番コスパがいいパンで贅沢でも何でもなかったが、残飯を漁る日も珍しくない中、何かを買って食べるというだけで贅沢感のある生活レベルを過ごしていた。
***
そこでスクリーンが一旦消えた。
「これで少しは思い出してきたか?」
吸血鬼が人格のバーストが尋ねる。
「思い出した! そうだ俺には妹がいたんだ。その名もレイナ! なんでこんな大切な事を忘れてたんだ!」
「それは続きを見れば分かる」
またスクリーンが映し出された。
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