洞窟拠点

 イエール山へはラミアに乗ってすぐに到着した。

 イエール山のどこを拠点にしているのか? 俺は気配探知で周囲の生物を探る。

 数十人の反応を得るが………どうやら奴らは山の洞窟内にいるらしかった。


「反応はあるが山の内部だ。多分洞窟だな。入り口はどこだろう…」


 少しの間、みんなで探していると……


「ご主人様! あの渓谷のあそこ! 洞窟に入り口があります!」


 山の中腹辺りに氷河の割れ目のようにパックリと割れた、幅は小さめだが底は深いという渓谷があった。

 随分と危険な所に。あんな所ならこの山の洞窟を拠点にしていると分かってなければなかなか見つけられないだろうが。


 俺とラミアは浮遊魔法で、グラードは渓谷の両壁を蹴りながら降りていくが……


「あれ?」


 グラードは洞窟の入り口に入れず、そのまま渓谷深くに落ちていく。

「あーーーーー」


「全く」

 と言いながらもラミアが助け上げてくれた。


 洞窟をしばらく進むと開けた空間が現れ、何人かが談笑していた。

 おそらく強奪したであろう、木箱などが無造作に積み上げられている。

 洞窟はさらに奥に続いており、かなり広いようであった。


「ぎゃははは、そりゃ傑作だな……っててめら何だ! どっから湧いて来やがった!」

「イネスはどこだ?」

「あっイネス? お前らイネスの知り合いか?」


 獣人のワーウルフにリザードマン、あとは、柄の悪い人族だった。

 それなりに腕はたちそうだがもちろん俺たちの敵ではない。


「雑魚に用はない。イネスを連れてこ……」

 と俺が言っているうちに


 ドゴッ!

 グラードが連中をしばきにかかる。

 全く手が早い。


 一人だけを攻撃を加えずに残した状態で、そいつを蹴り飛ばして、

「ほら、さっさと呼んでこい!」

 と促した。


「くっくそう!」

 そう言って敵の一人は奥に走り去っていく。

 俺たちは洞窟への奥への別れ道のうち、敵が逃げ去った道の奥へと洞窟を進んで行った。



 一人の槍を持った少年とその背後に獣人族と人族が10人くらい控えていた。


「あっこいつらだ! こいつらがいきなり仲間を!」

 先ほどグラードが蹴り飛ばした敵が喚いている。


「おい、ボスは?」

「今、呼びに行っています」

 敵達は突然の事で混乱しているようであたふたとしている。

 洞窟はさらに奥に続いているようで敵のボスはまだいないようであった。


「イネス!」

 ラミアが呼びかけると、


 ピクッとイネスはその声に一瞬反応を見せるが、その表情は無表情で変わらない。

 また返答を発する事もなかった。


「あの子がイネスか? なんか様子がおかしくないか?」

「はい、あの子です。確かに様子がおかしいですね。あんな無表情な子じゃないです。ああ、イネス………」


 何だろう。視線がどこか一定を見ているんだが見ていないというか。何かしらの催眠魔法か?


「旦那、あいつ竜騎士なんだろ。ちょっと試してみてもいいか?」

「傷つけるんじゃありませんよ!」

「うん、ラミアの言う通り、手合わせする程度ならいいけど。傷つけるなよ」

「了解ー」


 そういうとグラードはイネスに歩みより対峙した。

 S級冒険者とイネスはどれだけやり合えるか?


「お、おい! イネス、そいつら敵だ! やっつけろ!」


 イネスも戦闘態勢に移る。


 いつもはすぐに突進、攻撃を仕掛けるグラードが……動かない?


「なんでグラード攻撃仕掛けないんだ?」

「……今、二人は機先の取り合いをしていますね……イネスも腕を上げているようです」

 ラミアも立ち会いをした事があるのか。


 ドン!

 という音とともに先ほどまで距離をとって向かい合っていたはずの二人が鍔迫り合いをしている。


 ドギャン!!

 と鍔迫り合いの状態からグラードが吹っ飛ばされた。


「剣術と槍術であれば、グラードに1日の長があるようですが、パワーに圧倒的な差があります」

 ラミアの見立てはそうらしい。であれば試合はここまでだ。


「よし! そこまでだ!」

 俺は二人の間に割って入る。


 イネスは赤ちゃんの俺の姿を見て、キョトンとしている。


「おい、ガキ、冗談じゃねえんだぞ! 怪我したくなきゃ消えろ!」

 後方のイネスに指示を出した奴が俺に注意している時に後方から……


「おい、これは何の騒ぎだ?」

 と敵のボスらしい者が姿を現した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る