赤竜の爪

 俺たちは歩みを進め、竜達の住処の大穴が見えてきた。

 現在は警戒して外に出ている赤竜はいないらしい。


 俺はみんなに待つように――

 手をすっと上げて合図し、

「赤竜達よ!話がある!」

 と呼びかけた。


 大穴からゾロゾロと赤竜達が出てくる。

 燃える盛るような赤い鱗に黒い目をしている。


「なんだ人間よ………って赤子だと!?」

 おそらく群れのリーダーであろう者が応対してきたが、俺の姿を見て驚いている。

 いや、普通、驚くの逆だけどな。


「赤ん坊でもちゃんと思考してしゃべれるから安心しろ。お前達に頼みがある。どうか爪を一つ貰えないだろうか?」


「………………。」

 赤竜達は顔を見合わせるように沈黙した後、


 ドッ!ワーーハッハッハッハッハ!!

 全員が地響きのような笑い声を上げた。


「わざわざ矮小、脆弱なるもの達が何しにきたと思えば、あろうことか我らの爪が欲しいだと! 笑止千万! お前らなど我々にとってはエサにすぎんわ!」


 うーーん、これは随分と舐められてるみたいだな。

 あっまずい、ラミアがプルプルしだした。

 どうにか穏便に事を済ませられないだろうか?


「じゃあ何かの交換条件ってのはどうだ? お前らが望むものを持ってこよう!」

「ふん、そんなものはもう我らの目の前にあるわ! 貴様らを食って腹の足しにしてやる!」


「グギャオォォォォォーー!!」

 あっラミア切れた。


「貴様ら我のご主人様に対して食うだと!? それに我に向かって矮小、脆弱なるものだと!?」

「なっ何だ、人間お前、人間にしては魔力は高いみたいだか、そ、そんな物では我らの敵ではないぞ!」

「まだ言うかぁ!!」


 ボン!っとラミア人化を解いた。


「ギャオォォォォォーー!!」


 プルプルプルプルプル

 赤竜達は借りてきた猫のように大人しくなり、プルプル震えている。


「こっこれはラミア様でしたか! お久しぶりでございます。 ははーー! おい! お前達もご挨拶しろ!(殺されるぞ!)」


 赤竜の群れが集団で土下座をしている。

 おそらくこの光景は今後見ることはできない、一生に一度の光景だろう。


「貴様ら私のご主人様に無礼を働きおって万死に値する!!」

「ヒィーーーー!!」

「まあまあ、ラミア、謝ってるし、もういいだろ。」


 赤竜達は赤ん坊の俺がラミアに親しげに話している事に目を丸くしている。


「ですが……まあ、ご主人様が許すとおっしゃられるのであれば許しますか。」

「あ、あのーーーラミア様。先ほどからご主人様と言われてますのは?」

 おそらく赤竜達はラミアが赤ん坊の俺に言っているのではなく、何か透明魔法でも使っている偉大な存在が別にいると思っているのだろう。


「何を言っている? 貴様らの目の前にいるだろう。愛おしい赤ん坊の姿で」

 まじかと赤竜達は顔を見合わせている。


「それはいい。さっさと爪をよこせ!」

「はい! 只今!」

 赤竜達は自分たちで爪を次々剥いでよこしてくる。

 いや一つでいいんだけど。


「ご主人様、爪のご用意ができました。」

「う、うん、ありがとう。」


 集められた赤竜達の爪は山のようになっている。

 わざわざ剥いでくれた爪だ。こんなに要らないともいえない。

 俺はその爪を無限収納に入れた。


「じゃあ赤竜さん達ありがとう!」

「ありがとう!」

「ありがとうございます!」

 ストラスとレンツェは特に何もしてないが礼儀として挨拶をした。


「それでは返りましょうか。」

 そう言って、自分に乗るように促してくれたラミアにみんな乗る。


 バサーーーーーーーー


「…………………た、高いーー」

「イエーーーーーーーイ!」


 ラミアに最初乗って来た時と同じようにレンツェは目を丸くし、ストラスははしゃぐ。


「ラミアありがとな。」

「いえ、もったいないお言葉。お力になれたのなら嬉しいです。」


 先程の山岳地帯はもう超え、眼下には平原が広がっている。

 平原には水牛がものすごい数の群れをなして走っていた。


「うわーーーすげーーーー!」


 進行方向の太陽は隠れかけて、空を一部赤く染めつつあった。

 王都まではおそらく日が沈むまでにはつけるだろう。

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