紅雨の悪夢

@KI-LA

紅雨の悪夢

蝉の声が鳴り響くとてもとても暑い夏の日。

私達5人は忘れられない体験をした。

もし、貴方がこの話を信じてくれるのなら。

お願い。

この物語を伝え続けて。


私達が通う藍白(あいじろ)学園は、毎年の恒例行事として二年生の林間学校がある。

毎年林間学校を行う場所は違う。どこに行けるのかと二年生はとても楽しそうだった。

隣で、バレないようにスマホを使う美月もその一人だ。

今は、林間学校に向けての話し合いを体育館でしている。勿論、周りには教員が居る。

それでも誰一人美月がスマホを触っていることに気が付かない。

気付いているのは私だけ。

「美月、いい加減やめたら?先生に気づかれるよ。」

「大丈夫だって!栞は心配しすぎ。」

そう笑う美月だったが、その隣を教師が通る。けれども美月が言ったように誰一人気付かない。

美月は、誰かと連絡を取り合っているようだが、反射でスマホの画面が見えない。

少しすると、美月はスマホに飽きたのかポケットにしまった。

「それにしても、暑いね。」

真夏の体育館ほど、暑苦しいものはないだろう。空調もない空間に多くの人間が密集している。

ここにいる誰もが汗を流していた。

私はもちろんの事、隣に座る美月さえも。

ただ、他の人と違って美月の汗は彼女を彩るためのビーズのようだ。

美月はこの学校一と呼ばれるぐらいの美人で、この学園の理事長を親に持つ生徒。

だから、他の生徒と美月は別の存在に思えるのかもしれない。

学年主任の話が終わり前からしおりが渡される。

そのしおりの表紙には大々的に

≪藍白学園 二年 林間学校≫

と、書いてある。

そのしおりをめくると、よくある注意事項の下に今回林間学校で行く場所の名前が書いてあった。

≪汝村≫

聞いたことのない名前にみんなが困惑するが、そんなこと関係なしで先生の話は進む。

誰一人反論など出来ずに集会は終わった。

教室に戻るとみんなの不満が爆発した。口々に文句を言う声が聞こえる。

美月もその一人で机に頬杖をつきながら私に不満を伝える。

「マジで、≪汝村≫ってどこよ。去年はそれなりに有名で、素敵な場所だったって言うのに。」

「確かに、≪汝村≫って聞いたことない場所だよね。」

「栞は、今年から転入してきたから豪華な場所で思い出を作りたかったのに。」

私は、今年の初め頃に親の都合でとある田舎からこの藍白学園に転入した。

美月は転入してきたばかりの私を思って学園内を案内してくれたり、遊びに誘ってくれたりした。

そんな私の友達は美月だけではなくて後二人。美月の傍で立っている男子二人。

いつも明るく、クラスを引っ張っていくムードメーカーの神田俊。

知的で成績も良いけど、少し毒舌な明智輝幸。

この三人は昔からの幼馴染らしく、いつもこのメンバーで一緒に居る。どこにいくにも一緒。何をするにも一緒。

「まぁ、俺ら四人一緒の班なわけだし?知らない田舎でも四人だったら楽しく過ごせるだろ」

「折角俊と離れて、療養できると思ったのにな。」

「俊かわいそー。」

こんな風にみんなと話している時間が幸せだった。

知らない場所でもみんな一緒ならきっと楽しい。

「でも、一人余計なのが入っているよね。」

美月が見つめる先に居たのは最後のメンバーの篠原瑞樹さん。

いつも一人で友達と一緒に居るところを見たことがない。

三人が言うには高校に入ってから誰かと行動しているところを見たことがないらしく、私も篠原さんと話したことは数回しかない。

それでも一緒の班なのだから仲良くなれればいいなと考えていた。

だけど、汝村で起こったあの悲劇はそんな思いさえ消し去った。


数週間後、私たちは朝早くに家を出て学校に来ていた。

今日は、林間学校初日。

多くの生徒が集まる中、見慣れた三人の顔を見つける。

「おはよう!今日は楽しみだね。」

「おはよう。栞!」

バスが来るまでの間私達四人は今後の予定について話し合って笑っていた。

その様子を、篠原さんがずっと見つめていたことも知らずに。

やがて、バスが学校に到着し生徒は皆乗り込んだ。

バスに揺られ数時間。

段々と街の景色は高いビルから田舎町に変わっていった。

「本当に、なにも無いね~。」

隣でけだるそうにそう呟く美月。

「林間学校にピッタリだね。」

「え~!栞本当にそんな事思ってるの?」

美月の言葉を返すことなく私はなにも無い村の景色をただ見つめ続けた。

「ここからは、班ごとにお世話になる民家の方に挨拶に行ってください。」

私達が通う学園の林間学校は変わっており、村民の方との交流も深めたいとのことで宿泊先は民家になっている。

私達五人は、お世話になる民家の場所を記してある地図を試行錯誤しながらその場所に向かう。

「本当に、田舎の中の田舎みたいな場所だよな。」

先頭を歩く俊と輝幸はそんな会話を私達に投げかける。

「それだけじゃなくてここ虫多すぎなんだけど!」

美月は虫が苦手でさっきから虫に怯えながら歩いている。

「少しは、栞を見習ったらどう?」

輝幸の言葉に一気に視線が私に向かう。

「私、昔田舎に住んでいたこともあって虫とか大丈夫なんだ。」

私の言葉に美月は驚いていた。

美月が驚く理由は、私が自分から過去の話をしないからだ。

そのため皆は、聞かれたくないことがあるのだろうと遠慮をして詳しく聞いてくることはなかった。

クラスの人たちと別れて数十分。やっと私達がお世話になる予定の民家にたどり着いた。

呼び鈴もなく古ぼけた木造の家は田舎にある民家そのものの様だった。仕方なく戸を開け、声をかける。

「お邪魔します!」

その言葉に中に居た住民が私たちを出迎えてくれるため姿を見せた。

年を取った老夫婦だが足腰はまだ現役なのかとても老人とは思えないほどの綺麗な姿勢だった。

「おや、あなた達が泊まりに来るって話の学生さんかい?」

妻である女性が私達を中に通しながら色々と聞いてくる。どうやら、孫の代ぐらいである私達と話すのは久しぶりで会話を楽しんでいるようだった。夫である男性はとても寡黙な人だったが、無言で私たちに今朝採れたというスイカを食べさせてくれとても優しい夫婦だった。

荷物を解き部屋で女三人ゆっくりしているとふいに美月が私に囁いた。

「ねぇ、今から探検に行かない?」

「えっ?別にいいけどなんで小さい声で話すの?」

「だって・・・」

そう言葉を濁した美月の視線の先には部屋の隅で静かに本を読んでいる篠原さんの姿があった。

美月は篠原さんの事を嫌っている。前に、どうして嫌いなのかと聞いたことがあったが詳しくは教えてくれなかった。

ただ、「気に食わない」とだけ。

私は、篠原さんと話したがらない美月に代わり今から少し出かけてくると伝える。

篠原さんも私たちの行動に興味はないらしく「そう」とだけ言ってすぐに本に目線を戻した。

俊と輝幸を誘うため部屋へ向かっている間美月が話すのは篠原さんへ対しての愚痴だった。

「人が話しかけてるっていうのにあの態度はないでしょ。」

何故、篠原さんに話しかけてもいない美月がイラつくのか分からず、ただ美月の愚痴を部屋に着くまで聞き続けた。

二人に探検の話をすると俊は目を輝かせて私たちの誘いに応じ、輝幸はくだらないと言ってはいたものも少しは興味があったらしく心配だからという理由でついてきてくれることになった。実際、俊より輝幸の方が楽しみにしていたのかもしれない。

私達五人は、老夫婦に少し出かけてくると伝えると少し険しい顔をした。

「行くのは構わないがこの山の先にある花畑には絶対行ってはいけないよ。それが守れるのなら行っておいで。」

私達は、老夫婦の言葉を守るという約束をして村を探索し始める。

しかし、村はとても狭い。最初は、老夫婦の言う事を守っていたが段々とやることがなくなり、仕方なく帰ることにした。

だが。

「なぁ、あのおばあさんが言ってた花畑に向かってみないか?」

帰り際そう俊が切り出す。

最初は皆困惑の色を浮かべていたが、人間とは禁止されるモノほどやりたくなるものだ、好奇心は自分の首を絞めると知っていながら。

俊の熱烈な提案により皆、花畑に向かうという事に了承した。

しかし、好奇心がゆえにここまで来たが約束を破っているという罪悪感のせいで向かう道中誰一人言葉を発さなかった。

老夫婦が言っていた花畑は村と離れた場所にあったが一目見た瞬間にここだと分かった。

そして、その花畑の異常さを知った私達は入り口で立ち止まってしまった。

一面に咲き誇る花。

咲き誇る花はすべて赤い。だが、中央になにかしらの大きな石とその前に一輪だけ咲いている白い花。

とても異様な光景だった。

その光景を見てもなお好奇心に耐え切れなくなった俊は一人花畑の中に入っていった。

「ちょっと俊!流石にやばいんじゃ・・・」

「大丈夫だって!普通の花だよ。」

怖さを紛らかすためか俊は必要以上に赤い花を踏み潰した。

その光景を見て残り二人も躊躇しながら花畑の中へ入っていった。

「本当だ・・・ただの花だ。」

「花にビビっていたなんて恥ずかしいわ。」

ただの花だと分かった三人は気分が舞い上がりどんどんと大きな石に近づいて行った。私はただ一人花畑の入り口で立ち止まり、みんなの様子を見ていた。

やがて、日が沈みそうになると奥まで行っていた三人が帰ってきた。帰ってきた美月の手には大きな石の前で一輪だけ咲いていた白い花が握られていた。

「なんで栞来なかったの?」

「ごめん・・・私花って好きじゃなくて。」

明らかに不満を込めた目線で私を見る三人。

「それよりさ、美月が手に持っている花どうしたの?」

「あー。これね。綺麗だったから採ってきたの。」

軽い口調でそう話す美月。

手に握られている白い花は日の光を浴びて異様に輝いて見えた。残り二人も花を採ってきたことについて深く考えてはいないようだ。

日が沈む前に帰るために少し急ぎながら来た道を戻る。その間白い花はずっと美月の手の中で綺麗に咲いていた。

民家に着いた頃は急いでいたこともあって日は落ちていなかった。

だが、美月が白い花を持って家に上がろうとした瞬間先ほどまでとても優しかった老夫婦が般若のような顔をして美月を問い詰めた。

「お前!あの花畑に入ったな!」

「それだけではなく≪汝村≫の白い花まで採りおった!」

そう美月に怒鳴っている内に雨が降り出した。先ほどまで快晴だったのに。その雨は私たちが普段目にする雨とは全く違っていた。

「なんだよ・・・これ。」

「赤い花弁が雨のように降ってくる。」

私はこれを知っていた。

「紅雨(こうう)」

その雨を見たとたん先程まで般若のようだった老夫婦が、今度は真っ青な顔をして膝から崩れ落ちた。

「汝様はお怒りだ・・・」

「汝様の花畑を荒らしただけではなく、汝様の封印の白い花まで採ってしまった・・・」

二人の言葉からして私たちはとんでもないことをしてしまったのだとこの時初めて理解した。いや、理解したつもりでいた。

花を持っていた美月も老夫婦と同じようにとても青白い顔をしていた。その理由は、先程まで美月の手の中で綺麗に咲いていた花は今では見る影もなく朽ちてしまったことだ。

 最後には、跡形もなく消え去った。

「これ、どうなっているの!?」

悲鳴に近い声で美月が叫ぶ。

残り二人も信じられないと言わんばかりの表情だ。

「お前らは、≪汝村≫の封印を解いてしまった。この先、お前らは罪を償わなければならない。」

それだけを言うと老夫婦は、家へと入っていった。

残された私たちはただしてしまったことについての後悔と恐怖で動けなかった。そして、始まるのが罪の擦り付け合い。

「俊が最初に花畑に入ったのが悪いんじゃない!」

「は?花をちぎったのはお前じゃないか。」

「二人が悪いんだ。俺は関係ない。」

必死に自分がしたことを他人のせいにして逃げようとする姿はなんとも滑稽だ。

「三人共言い争いしている場合じゃないでしょ。とにかく逃げようよ。」

私は、この見るに堪えない光景を宥めようとした。だが、三人は私の言葉に賛同する前に私を責め立てた。

お前も花畑に入ったのと同じだ。

お前だけ逃げるなんてことは許さない。

全ての原因はお前だ。

ひとしきり私を責め立てると理性を取り戻したのか落ち着きだした。

「ごめん・・・栞にひどいこと言って・・・」

「気が動転していたんだよ。私は気にしていないから。」

完全に三人が落ち着いたのは日が暮れてからだった。

「とりあえず、家の中に入るか・・・」

「あの夫婦、家に入れてくれるかな。」

戸惑いながらも玄関の扉を開ける。玄関には夕食のいい匂いが漂っている。

恐る恐る台所を覗くと老夫婦は、夕食の準備をしていた。

おばあさんがこちらに気が付くと優しい笑みで

「夕飯にはもう少しかかるから部屋で待っておいてね。」

と、子供に言い聞かすような優しい声をかける。

私達はおとなしく老夫婦の言葉に従い自分の部屋へと向かった。

部屋では、私達が探検に行く前と同じように篠原さんが部屋の隅で本を読んでいた。

先程と変わりない行動の筈なのだが今の美月にはそれがとても気に食わないらしい。

部屋に入り、そんな篠原さんの姿を見た瞬間に今までの鬱憤を晴らすかのように怒鳴り始めた。

「あんたのせいでこっちはひどい目にあったんだけど!」

「私には関係ないはずだけど。」

篠原さんの言葉正しい。だけど今はそんな正しい言葉が聞きたいわけではない。

「あんたが・・・あんたもあの時いなくなっていればよかったのに!」

「美月!」

興奮した美月は篠原さんの髪を引っ張りながら怒鳴る。私は止めようとしたがその力はとても強く、振り解くことが出来なかった。

篠原さんは、美月の言葉に否定も肯定もせずただ黙って美月を見ていた。

「もういい・・・。」

美月は疲れたのか、篠原さんを離しどこかへ消えていった。

「ごめんなさい。止められなくて。」

私は美月の代わりに篠原さんに頭を下げる。友人として、ここにいた唯一の人間として。

「いいよ。慣れているし。」

篠原さんは乱れた髪を手で直し先程と同じ格好で本を読みだした。私は、美月が居ない今が篠原さんと仲良くなれるチャンスだと思い、隣に座った。

「篠原さん何の本を読んでいるの?」

篠原さんは私の問いに答えることもなく、ただ本を読んでいた。

きっと本に集中していて私の声が聞こえなかっただけだと、自分を励ます。

私は、どのくらい篠原さんに質問をしたのか。仲良くなろうと必死でよく覚えていなかった。

ただ、覚えているのは篠原さんが私に話しかけてくれた言葉。

「貴女は誰なの?」

この一度だけだった。

篠原さんの目は私の目の奥にある秘め事を暴こうとするそんな目だった。

「誰って、有栖川栞だよ。」

私は、戸惑いながら答える。

篠原さんは、

「そう。」

とだけ言って再び本に目線を落とした。

それからは、いくら私が話しかけても返事をしてくれることはなかった。

原因は、私が美月の傍にいるからなのか。私は、何故美月が篠原さんを目の敵のように接するのか。何故、篠原さんは美月と対立しているのか。

私は、何も知らない。

民家に帰り、一時間は経っただろう。外は完全に日が暮れている。

すると突然、部屋の襖が開いた。

そこに立っていたのはおばあさんだった。

「ご夕食の準備が出来ましたよ。」

「あっ!今行きます。」

結局美月は一時間経っても帰ってこなかった。

食卓に用意された夕食は、山で採れた山菜や海の幸などが並んでいた。そのどれもがとても美味しく取り合いのようになる程だった。

だが、一つだけ空いた席がずっと違和感を発していた。


美月は、翌日の朝帰ってきた。

「美月!どこに居たの!?」

帰ってきた美月の目はとても虚ろで話す言葉も現実味のないものだった。

「昨日、家を出た後頭を冷やそうと思って散歩をしていたの。そしたらいつの間にかあの花畑に居たの。そしたら、そこに黒い影の女の人が居たの。」

ずっと、同じことを繰り返し話す美月に私達は恐怖を感じていた。

「おい・・・まさか、これってあの花を摘んだから美月はこうなったのか?」

「そうとしか考えられないだろ・・・」

「その子はきっと、汝様の姿を見たんだろうね。」

老夫婦は美月の様子を見ても顔色を変えずにそう言った。

「どういうことなんですか?」

私の問いに老夫婦は答えようとはしなかった。おじいさんはそれ以上何も聞かれたくないと言わんばかりに、さっさと美月を奥の部屋へと運んだ。

「おい!どういう事なんだよ!」

俊はおばあさんに問い詰めた。それでもおばあさんの表情は変わらない。

「昨晩、この子は汝様の姿を見て魅入られたんだよ。」

「魅入られたって・・・」

それだけを言うとおばあさんもおじいさんの後を追って奥の部屋へ入っていった。

少しの沈黙の後、俊は意を決したように声を絞りだした。

「あの花畑に行こう。」

その言葉に反論する者など居なかった。美月がこんな風になったのはあの花畑が原因だと分かっているから。

花畑へと向かう私達の空気はとても重いものだった。誰も口を開くことはなく、ただ、目的地へ足を動かす。

花畑に着いた頃には日が真上に上っており、汗でシャツが張り付いていた。

花畑は昨日と変わらず赤い花が咲き誇っている。

だが、どこか違和感がある。

その違和感はすぐに分かった。

「石碑が壊れている・・・」

壊れた石碑の傍に咲いていた筈の赤い花は散り、花弁がまるで血のようになっていた。その異様な空間に私はただ立ち尽くしていた。

花の匂いに懐かしさを感じながら。

そんな中ただ一人輝幸だけ冷静だった。

「とりあえず、何か手掛かりがあるか手分けして探そう。」

「わ、分かった。」

輝幸を筆頭として私達も花畑を隅々まで探す。だが、何時間経っても手掛かりが見つかることはなかった。

「今日は、もう遅いから帰ろう。」

気が付いた時にはもう日が暮れかかっていた。

輝幸が私の隣を通った瞬間、何とも言えない恐怖を感じた。

ただただ、怖かった。その日は帰っても輝幸の顔を見ることが出来なかった。


家に帰ってきても美月の様子は朝と変わっていなかった。部屋の中央で死んだように眠る美月の傍に座る。何もできなくともただ傍に居て安心させてあげたかった。

その時、部屋の襖が開いた。

そこに立っていたのは不愛想な篠原さんだった。

「篠原さん。どうしたの?」

いつものように篠原さんは私の問いに答えなかった。私が居る事をまるで知らないかというように、見向きもせずに私の傍を通り過ぎる。

篠原さんは、美月の手を握り何か喋っていたようだが声が小さすぎて聞こえなかった。少しすると、寝ている美月の表情が穏やかになった。

「篠原さん。何をしたの?」

目線は美月に向けたまま篠原さんは淡々と話しだした。

「今、貴方達は祟り神に近いモノに魅入られてる。この子は、その祟り神に連れていかれようとしていたの。」

私には、篠原さんが言っている事が分からなかった。

祟り神って?

連れていかれるって?

それに、なんで篠原さんが私達のやってしまったことを知っているの?

聞きたいことは沢山あったが私の口から出た言葉は、私が疑問に思っていた物とは違っていた。

「どうして分かるの?」

篠原さんは、一瞬だけ私を見た。

私を見つめる篠原さんの目はとても冷たいがその奥で何か揺るぎない意思を持っているような目だった。

「私の家系って巫女の血筋なの。まぁ、信じてもらえないだろうけど。」

『信じてもらえない』という言葉はとても皮肉めいて聞こえた。

「だから、こんな風に魅入られてしまったり、憑りつかれてしまったりしてしまった人の対処は慣れているの。」

もし、篠原さんの言っていることが全て真実だとしたら、一つだけ疑問が残る。

「どうして、美月を助けたの?」

私がこの学園に転入する前から篠原さんは美月からひどい仕打ちを受けていた筈。普通なら、自分を虐めた人物を助けようだなんて思わない。

私の質問に篠原さんは答えなかった。

「私が今、貴方にアドバイスをするのなら、あの輝幸って奴の上着のポケットに入っている筈の石を今日の夜中に砕け、という事だけ。」

篠原さんは、今日の夜中を強調する。

それだけを言うと、部屋から出て行ってしまった。

残された私は、美月の手を握り祈った。


夜中、私は篠原さんに言われた輝幸の上着のポケットに入っているはずの石を確かめる為に男子二人が寝ている部屋に居た。

周りに街灯や町明かりがない為田舎の夜はとても暗い。

その静かさがどことなく不気味だった。

明かりをつけることが出来ない為、上着を探すのに時間がかかると思っていたが、幸いなことに上着は壁に掛けてあり、すぐに見つかった。

輝幸の上着のポケットを探ってみると、篠原さんが言っていた石が見つかった。

「これって・・・」

それは、今日行ってきた花畑にあった石碑の欠片だった。欠片の裏を見ると何か文字が書いてあるようだったが、長年の雨風で文字が擦り切れてしまっている。

どうして、こんな物が輝幸の上着のポケットから。と、考えてみたが分かるわけもなく。私は篠原さんに言われた通りこの欠片を砕くために外へ出た。

外の風は、とても生暖かく肌にまとわりつくような嫌な風だった。

覚悟を決め、欠片を地面に叩き付けようとした時。

玄関の戸が勢いよく開いた。

そこには、よれよれの服を着た美月。

「美月!」

私が美月に近づく前に私を制する声が聞こえた。

「栞!あの女の言う事を聞いたらダメ!その石は、砕いたらいけないの!」

美月の必死の形相に私は身動きが取れなくなってしまった。まるで、体が石になってしまったかのようだ。

美月も、私と同じように体が動かないのか微動だにしない。

心配だったが、体が動かなくてはどうにもならない。

その状態でどのくらい時間が経ったのだろう。きっと、数分の筈だった。だが、体感では数十分に感じられた。

唐突に体の自由が利き、持っていた石を下に落としてしまい。石は粉々に割れてしまった。

その瞬間を見ていた美月は一瞬不敵な笑みを浮かべた。だが、不敵な笑みを浮かべた後美月は糸の切れた人形のように膝から倒れた。

私は急いで美月を抱きかかえると、美月は穏やかな顔で私の腕の中で眠っていた。

美月をそのままにしておくわけにもいかないが、部屋に運ぶ筋力も私にはない為仕方なく美月を起こすことにした。

「美月。起きて。」

うーん、と唸りながらも薄っすらと目を開ける。

「ここ…どこ?」

「どこって…。外だけど。」

美月は、昨日家に帰ってきてから記憶がなかったらしい。だったらどうやって、美月は外まで出てきたのか。

ふいに、落として割ってしまった石が気になり、落とした場所に行くと先程まであったはずの石が消えていた。

一体どうなっているのか分からず、二人して立ち尽くしていると玄関の方から名前を呼ばれた。

振り返ると、そこには篠原さんが青い顔をして立っていた。篠原さんの視線の先は先ほどまで砕けた石が落ちていた場所にあった。

「どうして、私が言った事を守らなかったの」

「守ろうとしたんだけど、美月に止められて。そしたらその後急に体が動かなくなって。」

美月は何が何だか分からないというような顔でただただ私たちの会話を聞いていた。

「あの石は今日中に壊さなければいけなかった。」

篠原さんはとても冷淡に話し出した。

「貴方達全員が『何か』に魅入られているという話はしたでしょ。その『何か』はどうにかして貴方達を連れていきたい。そして、この石はあの子と『何か』を繋いでいた物だった。」

「だった?」

篠原さんが過去形で話したことに疑問と不安を感じた。

そして、その不安は当たってしまった。

「もう薄々気付いていると思うけど。あの子連れていかれたね。」

美月の顔は恐怖で怯えていた。

私は、我を忘れて二人を置いて輝幸が寝ている筈の寝室へ向かう。寝室に行くまでの道のりはとても長く感じてしまう。

遠く感じた寝室にたどり着くと、そこに居たはずの輝幸の姿がなかった。

それだけではなく、輝幸の私服や私物。その全てが綺麗さっぱり無くなっていた。

私は、急いで隣で寝ている俊を起こす。

最初は、寝ぼけていた俊も私の様子を見てただ事ではないと悟ったのか、私の拙い説明を理解しようと耳を傾けてくれていた。

一通り、説明すると俊は黙って部屋の隅々を探し始めた。

「なにしてるの?」

私の声を聞こえないぐらいに集中しているようだ。部屋を探し終える頃には篠原さんと美月も合流していた。

何かを探し終えた俊は、静かに首を横に振った。

「どこにも、いない。アイツが持っていた私物も全部消えてる。」

隣を見ると、美月は今起こっている事に対して理解が追い付かないのか空虚な目で部屋の隅を見ている。

篠原さんは、責任を感じているのかずっと下を向いている。

私も、全て理解したと言えば嘘になる。ただ、何故か輝幸はもう二度と帰ってはこないという嫌な自信だけあった。

私達の間に冷たい空虚な風が吹き抜ける。俊が静かに言葉を選びながら話し出す。

その話を聞き、その真実を知った時私達はもう『汝様』というモノから逃れられないのだと悟った。

「あのさ、言いにくいんだけど聞いてほしい。」

神妙な顔で話す俊の言葉はとても信じられるものではなかった。

「今日、帰ってきたときからアイツ多分石なんだと思うんだが。それをずっと見つめて何かブツブツと独り言を話していて。何喋っているのかと気になって近づいてみたら。ずっとこれで全てが叶うって。喋ってて・・・。」

「叶うって・・・何が?」

「それは、分からないが。その様子が明らかに異様で目が血走っていたんだ。」

今となっては、どうして輝幸がそんな態度をとったのか知る術はない。

夜が明け始め、家の人に心配をさせない為私達は部屋に戻り眠ることになった。部屋に戻り、寝ようと布団に入るが眠れるわけがない。

何故、輝幸は消えてしまったのか。それをずっと考えていた。

だが、どれだけ考えようともその答えが見つかるわけがない。寝不足が故の激しい頭痛を感じながら、朝食を食べる為食卓へ向かう。

そこには、老夫婦の分だろう食器と、私達が使うだろう食器の計6個分が用意されていた。私の後ろに着いてきていた美月と篠原さんも驚きを隠せないようだ。

私は、意を決して微笑ましく朝食の準備をする老夫婦に疑問をぶつけた。

「あの。何故、食器が6人分しか用意してないのですか?後一人居る筈じゃ・・・」

夫婦は、準備していた手を止め。私の目をまっすぐ見つめる。

「なにを言っているの。最初からあんた達4人だったじゃないかい。」

その言葉に嘘偽りはないと感じた。だとすると、この人達は輝之の事を覚えていないという事になる。

どうして、輝之の事を忘れてしまったのだろか。

私は、こんなにも思い出があるというのに・・・

そして、輝之と作った楽しかった思い出を思い浮かべたつもりだった。だが、何度思い出してみても何も思い出せない。まるで、最初からそんな思い出なんてなかったかのようだ。

そんな私の心情を知らない老夫婦は先程と同じように微笑ましく朝食の準備を終わらせる。食卓に並べられた豪華な朝食も、まるで味が分からなかった。

本来なら今日は、朝食後は班での自由行動の予定だった。

しかし、この状況でこの村を見て回る気なんて起きない為輝幸が消えた部屋で4人固まって座っていた。

重苦しい空気の中、誰も口を開かずに、ただ人肌が恋しい為一緒に居た。

今、こうしている時間の中でも、輝幸の事がだんだんと思い出せなくなっていた。記憶を失うという事はこんなに恐ろしいことなのだと改めて知った。

記憶を失っているのは、自分だけなのかと聞いてみたかったが、みんなも私と同じだった時輝幸は本当の意味で消えてしまうと思ったら聞くに聞けなかった。

その時、意を決したかのように篠原さんが強い口調でみんなへ話し出す。

「ねぇ、貴方達も私と同じようにあの人の事思い出せなくなっているんでしょ?」

あの人はきっと輝之の事だ。

私達三人は篠原さんの質問に答えることはなかった。いや、「答えない」というのが私達の答えだった。

篠原さんはそんな私達を見て、嫌気がさしたのか部屋から出ていこうとしていた。

「篠原さん。どこに行くの?」

「望みは薄いけど、このことを先生に伝えて帰る準備してもらおうと思って。」

私は、この空間に居ることが苦になり始めていた。

「私も行っていい?」

篠原さんは、私の質問に答えず出て行ってしまった。私は、部屋から出るとき一瞬だけみんなを見たが誰とも目は合わなかった。

家の外に出るのは気が重かったがこの重苦しい空間に居る方が私にとっては苦だった。

急いで追いかけると、篠原さんは玄関で私の事を待っていてくれていた。二人で外へ出ると、そこは前と変わらない日常があった。

誰も輝幸が消えたことなんて知らずにいつも通り過ごす。

私以外の人は今が普通なのかもしれないが、私からするとそれが異常に感じた。

「確か、先生って村の入り口の民家にお世話になっているんだったよね?」

林間学校に行く前の事前指導でそう言われたことを思い出す。この村自体はそう広くなく、村の入り口には数分で着くくらいだ。

私達は、先生に今の状況を話したが案の定「おかしなことを言うな」と笑われ、まともに相手にされなかった。

「やっぱり、覚えているのは私達だけなんだ・・・」

「まぁ、予想はしていたけれどね」

お世話になっている民家へ帰る間、あの二人に何と言おうか考えていた。だが、死んだ顔の二人を見て考えた言い訳は口から発せる前に消えた。

生きることを諦めたかのような顔。

この顔を見るのは一体何度目だろうか。

だから。

私は、みんなにある提案をした。

「ねぇ、提案なんだけど。もしかしたら私達助かるかもしれない。」

私の言葉を聞いた二人は藁にも縋る様な顔で私を見つめた。

「私、前花畑に行ったときに見たの。花畑の後ろにある洞窟みたいなところを。」

最初に花畑に行ったときに視界の端に映った。花畑で隠すようにあった洞窟を。

「もし、貴方の話が本当なら行ってみる価値はあるかもね。」

全員一致であの洞窟に行く事が決まった。

前を歩く美月と俊の姿は生気がなかった。こんな状態で、しっかりしろというのも酷な話なのだろうが見ていてあまりいい気はしない。

「ついた。」

先頭を歩いていた篠原さんが足を止める。その先には、私が前見た洞窟。

「私が先頭を歩くから、三人は着いてきて。」

今までずっと篠原さんに頼ってきた。だから、今度は私がしっかりしなければ。

そんな思いで、私は先へと進む。

日の差し込まないこの洞窟は、とても暗い。スマホのかすかな光だけで奥まで進む。

洞窟は、奥まで一本道で迷うことなく進むことかが出来た。

洞窟の最深部は、少し広がっており、『何かが』入っている壺があった。

「なんだよ・・・。あの壺。」

「きっと何か、入っているんだよ。俊見てきて。」

俊は、私に何か言おうとしていたが、黙って壺に向かう。

「美月も。」

「なんで私まで!」

「助かりたいんでしょ?」

私に諭された二人は、恐る恐る壺に近づく。

古びた壺の中身を見た瞬間。二人の悲鳴がこの空間に木霊する。そして、悲鳴に共鳴するかのように、壺が地面に落ち割れる。

古びた壺から出てきたのは腐りきった人間の頭。

泣きそうな顔の二人は、恐怖に耐えられず私の傍を走り去る。最初の方は足音が洞窟内に反響していたがそれももうすぐ消える。

「行こう。」

私は、立ち尽くす彼女に手を差し伸べる。だが、彼女がその手を取ることはなかった。

「ねぇ。どういう事よ。」

疑心に満ち溢れた瞳を私に向ける。

「ここから出たら話してあげる。」

光をつけずに、来た道を戻る。

その道中で、誰にも気づかれないような暗い場所で恐怖に満ち溢れた二つの顔を見たような気がしたが、きっと気のせいだろう。

洞窟を出ると、気持ちの良い日差しが私の顔を照らす。

私達が洞窟に入り、出てくるまで数十分と経っていない。

「ついてきて。」

私は、彼女を連れてこの悪夢の始まりの場所へと足を運ぶ。

数十分も歩くと、村はずれの川へ着く。

その間私達の会話はなかった。

「ねぇ、貴方はどうしてここに住んでいる人が『汝様』って呼ぶか知ってる?」

私は、返事を待たずに昔話を始める。

昔、この村は川の増水に悩まされていたの。

川の増水のせいで家は壊れ、作物は枯れ、人々は命落とした。

だから、その災厄を止める為人柱を立てることにした。

その人柱に選ばれたのは、村に住む年端もいかない純潔の少女。

村人は、彼女の頭を切り落とし、体をこの川へ流した。

頭の方は壺に封じて少女が好きだった花畑の近くにある洞窟の奥に隠した。

村は救われた。

だけど、彼らは彼女の呪いを恐れた。

本当は、そんな呪いなどありもしないのに。

少しでも、病が流行するとそれを呪いだと騒いだ。

そんな日々に彼らの精神は少しずつ擦り減っていった。

だから、少女の頭を置いた洞窟の前の花畑に少女が好きだった白い花を埋めたの。

そして石碑を立てた。

「「わが村の守り神ここに眠る」」と。

それで、安心したかったんだよ。

これで、自分たちは呪いから解放されるって。

だけど、そんな自己満足にまきこまれた少女がそれを許すわけがないよね。

だから、少女は彼らに教えてあげた。

自分たちが助かりたければ生贄をよこせ。

そして、私の事を絶対に忘れるな。

忘れたら、今度こそお前ら全員を殺すって。

だから『汝様』と呼ばれるようになった。

汝という字は川に流した女って意味。

「どうして、そんな話を私にするの?栞。」

「ここまでが、この物語の序章だから。それに、貴方は知る必要があるから。」

じゃあ、問題。

どうやって、彼らは生贄を選んでいたと思う?

「・・・必要ない人間とか。」

残念。

正解は、噂を流しそれに引き付けられた害虫共から選んでいた。

『汝様』はなんでも願いを叶えてくれる存在だと。

そうすれば、自然と人が集まる。

ソイツらを生贄にしていたの。

本当は、そんなことないのに。

「ここまでは、理解できた?」

「なんとか。」

「じゃあ、次は『私』の話だ。あなたが一番知りたがっていた話。」

この子は、この村の出身だった。

だけど、ここにはこの子が通う学校なんてない。

だから、この子は仕方なく村はずれの学校へ通っていた。

だけど、そこで壮絶ないじめを受けた。

虐めていたのは、三人。

それはそれは、酷いものだった。

この子は、肉体的、精神的に壊れていった。

でも、最後にこの子を壊したのは、その三人じゃない。

親友だと思っていた少女からの裏切り。

そして、この子はこの川で身を投げた。

最後に、アイツらを消してほしい。

そう強く願って。

「この話に、訂正するところある?この子の元親友さん。」

下を向いて、唇をかむ哀れな少女。

この子を裏切らなければ、今度は自分がいじめの対象となる。

その恐怖から裏切った。とても弱くて哀れな少女。

「私は、その願いを叶えてあげようと思った。だから体を貰った。記憶は消したはずなのに貴方だけは覚えていた。素晴らしい友情とでも呼ぶべき?」

涙を堪えて【私】を睨む少女。

「じゃあ、貴方はどうやってあの三人を消したの?」

「消したのは、私じゃない。私はあの子が消すのを手伝っただけ。」

ほら、貴方の傍にいるじゃない。

「貴女の親友が。」

頭のない少女が。

この村に来た時からずっと親友の傍に居た彼女。

ずっと、ずっと、この物語を第三者として見ていた。

アイツらを消すことだけを望みながら。

あの壺に入っていた頭は私のじゃない。

それと、私は正確に言うと体を借りたわけじゃない。

身体を入れ替えた。

お互いが望む「モノ」を手に入れる為に。

私は、健康な体が手に入る。

あの子は、生贄として称してあの三人を殺せる。

だけど、あの子はまだ不完全。

「さっき話したけれど、人柱になった子は純潔だった。だけどこの子は、純潔なんかじゃない。」

いじめられた時に、あの子の純潔は奪われた。だから、あの子は待っていた。親友を。

泣きながら微笑む親友は自分のすべきことを悟った。

「ごめんね。今度は私、栞を一人にしないから。」

「素晴らしき友情ね。」

今度の親友は、前と違い笑っていた。

私は二人の友情を賞賛しながら、あの子の親友を川へと突き落とす。

これで、あの子は完全になる。

あの子の願いを叶えるためにあの三人と一緒に居たが、あれほど醜い友情は見たことがない。

一人は、自分が行ったいじめをなかったことにしようとして、友達の存在を消すこと願った。元々、どうにかして消すつもりだったみたいだけど。だけど、友ではなく自分の存在が消えてなくなってしまった。

次に消えた二人は、嫌がるあの子の純情を無理やり奪い、そのままぼろ雑巾のように捨てた。そんな二人は誰にも見つからない場所でお似合いの姿で死んでいった。

合体するのが好きな二人。恋人の体とくっつけられたのだから、さぞ嬉しいだろう。

最後は、あの子の姿を最初から見ていながらも知らないふりをし、三人を見殺しにした哀れな少女。あの子は、もう昔のような子ではないのに。

「そうでしょ?『汝様』」

ねぇ、最後にお願いを聞いてよ。

「我儘だね。まぁ、いいや。これで最後だからね。」

じゃあさ、私達5人の悪夢のような物語を伝えてよ。

そして・・・

ワタシニ。モット。イケニエ。チョウダイ。

殺すことに快感を覚えたこの子を止めることは誰も出来ない。

私を殺したこの村の住人もいずれこの子に殺される。

これが、私が残す最後呪い。

「しょうがないな。いいよ。」

全員死んでしまえばいい。だから、私はこの話を伝え続ける。

ねぇ、貴方はこの物語を信じる?

信じられないのなら、≪汝村≫に行ってみるといいよ。

きっと、素敵なことが起きるから。

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紅雨の悪夢 @KI-LA

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