飽きたわ。異世界転生し過ぎだって

水妃

第1話 飽きたわ。異世界転生し過ぎだって

またかぁ~。


下げて、上げてのパターン。

ウザイ。


感動の王道パターン。


ピンチから脱却して、

ストーリー上げ下げして感情移入。


まぁ、伏線回収は楽しいかなぁ。


でも、もう使われ過ぎだよ。

このパターン。

飽きたよ。

さすがに。


最近なんかみんなして異世界に転生し過ぎだし

これったらこれだよ。


主人公もピンチに陥り過ぎ。

からの逆転勝ち、、。


主人公の敵だった時はめっちゃ強かったのに、

仲間になったら弱くなるパターンも

お腹一杯かな。


文豪クラスはもう出てこないのだろうか。


もう先人にパターン全部やられてしまったのかな。

あとは組み合わせかな?

でも限界はあるよね。


最近読む本とか何か内容が軽いんだよね。

読み過ぎて麻痺っている?


何らかの賞を受賞しているから

認められてすごいはずなんだけど。


もっともつれて

何かこう……人間の根源、根っこ?

感じたいんだよね。


やっぱり、

売れなきゃダメだから

作品の内容より作者の見た目とか

年齢とか話題性重視なのかね。


まぁ、分からんけど。


トキオがそんな事を考えていると

テルミは言った。


「ねぇ、早く精子ちょーだい」


彼女は今日も満たされようとしている。


しばらく会っていなかったから

溜まりに溜まったモノを

飲み干したいらしい。


量が少ない時はいつも

「どこに出してきたの? 全部頂戴って言ったよね?」

そう責められる。


夕方から予定があったのに、

テルミは予定をキャンセルし

僕とホテルに行った。


彼女が作り出した唾液を

食事の為、話す為では無く

僕の為に使ってくれた事が嬉しかった。


そんな僕は今はもう一人だ。


もっと味わっておけば良かった。


どういう意味かって?


彼女と別れて独り身になったとか

そういう事じゃない。


地球上の人間が僕一人だけになったということだ。


好きな楽器を弾いても誰も聞いてくれない。


自分の想いを誰かに話したくても

話し相手がいない。


そもそも、この言語を話すのは

もう僕しかいない。


文字を書く事が出来るのも

僕しかいない。


僕が死ねば、

人類が途絶える。

文化も途絶える。


国境も、お金も、名声も

今となっては意味をなさない。


まぁ、

そもそも意味なんて無かったんだけどね。


一人になってふと思うんだけど、

何であんなに必死に戦争していたんだろうね。


突然新型のウイルスが現れて

国によってはロックダウンして、

ワクチン開発して

さらなる変異株にやられてしまった人間。


一時期ワクチンを打つ、

打たないでもめてたな。

分断があったな。


ネットのコメント欄荒れてたなー。


色々あったけど、

結局、ウイルスの方が一枚上手だった。


ワクチンの副反応もかなり多かったね。


僕は特殊な体質か

何故か感染しなかった。


いや、感染したのかも知れないけれど

症状も無く死ななかった。


意味不明な耳鳴りや足の痺れ、

持病のドライアイや

胆道ジスキネジ―がただただ僕にはキツイ。


実際、みんな生きている時は

一人になりたいなとか、

恋愛に疲れたとか、

仕事面倒だなとか色々考えたけれど、

一人になってみると

キツイね。


特に性欲がね。


木を性の対象としようと試みたり、

川を性の対象にしようと試みたり、

色々努力したんだけど

僕には無理だった。



あの乳房や丸みの帯びた

女体でなければ駄目なんだ。


悔しいけど脳に刻まれたプログラムに逆らう事が

出来ない。


僕じゃなく他の人が生き残って

こんな風に地球にひとりぼっちになったら

どんな事を考えるのかな?


何に我慢できなくなったりするのだろう。

逆に何に喜びを感じるのだろうか。


これって今僕は誰にも聞けないし、

共感し合える人が地球にいないし。


だって、

みんな死んだからさ。


僕の精子を受け止める先が無い。


自分の遺伝子を残す手立てが無い。


異性と二度と交わる事が無い。


僕はこの地球に一人きりだ。

久しぶりにぬくもりを感じたい。


様々な思考がめぐる。


たまに寂しい時があって

道に転がっている死体の横に眠り

その人の”寝顔”を見てる。


少し腐敗して

異臭を放っている。


早朝の強めの口臭のような

何とも言えないキツイ香りだ。


街はとても綺麗なままなのに。

高層ビルも、

デパートもコンビニもそのまま。

(食料が結構残っているから非常食などをタダで頂いている)


でも夜は真っ暗だから

少し不気味だけど星は綺麗だね。


また、別の時は

座りながら死んだであろう女の子に話しかけてみたりもした。

返事が無いから虚しかったけど。

でも、声を発声出来た事に喜びを感じた。


ベンチで二人で座りながら、

この子はどんな人生を生きたのだろうと考えた。


生きている時に僕達が出会っていたら

どんな事になったのだろう。


笑顔はどんなだったのかな。


恋は出来たのかな。


この子は最期に何を感じて逝ったのだろう。


そうそう、

新型ウイルスのせいで

リモートワークってやつが流行った時、

みんな本当に喜んだよ。


自分のリラックス空間で

仕事が出来るってね。


でも実際、自殺や退職が増えた。


仕事とプライベートの線引きが出来なくなったり、

密な相談が出来なくなったりで。


管理職なんか特にさらなる高度なマネジメントを

要求された。


僕の友人なんか、

新入社員の部下に一度もリアルで会う事なく

部下が退職したなんて言ってたな。


心理的なフォローが非常に難しくなったみたいだった。


やはり人間は社会的生き物だ。


人との繋がり、絆で脳内のホルモンが出るんだよ。

だから孤独に耐えられないんだよ。


自分は

リモートワークは大丈夫だったけど

さすがに今のこの状況は淋しいよ。


地球上に一人。


動物もいないからね。


ウイルスはいるけど

目に見えないからね。


そもそも見えても

憎いだけだろうし。


親、恋人、友人と

共に過ごした日々はウイルスによって失われていった。


いつまでも続くと思っていた日常は

いとも簡単に崩れ去ったんだ。


僕は大人になったら

もっと大人になっていると思ったけれど

違った。


トイレットペーパーを買っている美女を見ると

この人もうんこするのかと

小学生のような思考をしてしまう事があった。


そして、

便にも意識があるのかも知れないと

ふと考えたりもした。


人は変わらないね。


厳密には諸行無常で徐々に変わってはいるけど、

僕という枠組みの中で変わるのであって

僕がライオンになるとか鳥になるような

別人になるような劇的な変わりは無いね。

アインシュタイン並みの天才に変わるとかは無いわけよ。


実は僕はテルミと結婚して、

直ぐに離婚した。


盛大な結婚式をやって

たくさん親戚も来てくれて。


そして離婚した。


「恥さらし」


そう親戚からは言われた。


でも僕は受け止めるしかなかった。


テルミと結婚した時には

もう妹のような存在で

セックスする事が出来なくなっていた。


それが理由で離婚することなんてあるかって

思うかも知れないけれど。


それだけが原因で離婚した。


そして、

僕は再婚し子供をもうけた。


しかし、

新型ウイルスによって、

二人ともいなくなってしまったんだ。


何故自分だけ生き残ったんだろう。


意味なんて無い。


分かっている。


たまたま、このウイルスに強かった。

その個体が僕なだけだ。


そんな才能はいらなかった。


あと、

鼻毛が長い才能もいらなかった。


鼻毛が長い人が王になれるみたいな世界なら

嬉しかったけれど。


どちらかと言えば、

背が高いとか、頭が良いとか

歌が上手いとか絵が上手いとかの方が

有難い世界ではあったよね。


僕たちが生きた以前の社会では。


そして、

多才な有名人カップルが

優秀な遺伝子同士で結ばれてね。


まぁ、今はもうどうでも良いことなんだけど。

全部無いから。


母が言った。

「年老いたら淋しくなるから子供を作りなさい」


でも僕はその趣旨で子供を作った訳ではない。


自分の面倒を見て欲しくて

作った訳でもない。


理由は

未来を紡ぎたかったからだ。


あぁ、

何もかも辛いなら

何も始まらなければ良かった。


そう思うこともあったけれど。

今はそうは思わなくなった。


これはこれで良かった。


結局は大人になるにつれて

少しずつ可能性を削っていく。


折り合いをつけていく。


野球選手になりたかった人、

どれだけ夢叶った?


正直叶わなかったでしょ。


それが現実。


でも良いじゃない?


自分には自分サイズの人生があるし、

自分が幸せならばそれで良いじゃないか。


でも、

僕を見てみてよ。


野球自体がもう無いよ。


今、このように僕は

誰かに向かって自分の気持ちを

伝えようとしている訳だけど、

昔は文字が読めるのだって本当は嫌だった。


文字が読めるように洗脳されていると感じた。


黄色を見た時に黄色だねと

答えてしまう自分が嫌だった。


計算が解けるのも嫌だった。


みんなは達成感を感じていたけれど。

僕は真逆の感情だ。


しかし、

文字や言葉、計算がないと不便な世の中だから。

結局やっていたんだけど。


もう本当に

僕で人類が終わる訳だから

この文法を知る者もいないし、

話す人も書く人もいない。

算数を使う人も

方程式を使う人もいない。


脈々と受け継がれてきたものが

ここで消える。


何万年で進化したか分からないが

この精子を勢いよく射精しても意味が無い。


卵と結びつけない。


種の保存が出来ない。


昔、無精子症と相談してくれた

親友がいた。


彼は言った。

「俺、今まで必死に何を出していたんだろう」と。


僕も今、一人で射精しながら

何を出しているんだろうと思うよ。


この新型ウイルスは

人間無しでも生きていけるように進化した。


実はね、ウイルスによっては殺されない僕だけど、

もうすぐ死ぬんだ。

きっとこのウイルスと共に。


何故って?


あの地球に近づいている太陽によって。


色々なことを振り返って考えたけれど、

今死ねることでホッとしている。

自殺をする勇気は無かったから。


死ぬことも毎晩寝るのと同じなんだろう。

今まではリハーサルで

これからが本番かな。


みんなより少し遅れて

本番のステージに向かうよ。


もっと、

ゆっくり様々な景色を自分の人生で見たかったな。

毎日仕事、仕事、仕事で

人生という景色をゆっくり見渡す事が出来なかったから。


そういえば、

中学の時に転んで頭を打って気絶した。


よく覚えていないが

こんなものを見た。


地球が何かの生物の白血球的な存在で

火星が赤血球。

宇宙はとある生物の身体の中だった。


我々は人間は腸内細菌ような感じ。

善玉菌、悪玉菌戦争か。


目覚めた時には

体育館の隅っこだった。


先輩が運んでくれたらしい。


死ぬ前に何でこんな事思い出すのだろう。


いよいよ時間だ。

太陽が近づいてきた。


これでやっと死ねる。


あれ、

急に怖くなってきた。


まだもう少し生きたいって思うよ。


本能かな?


でも、

まぁ良いか。


全てはあるようでないようなもの。


そう、

この世界はただの錯覚だ。


最期に言う言葉これで決まりだな。


めっちゃベタだけど。


今まで

ありがとう。





あれ……



ん……


何だこの感覚……


え……


何かスルッと出ていく感じ。


うん?


え……


僕、臭いんですけど。


身体中臭いんですけれど。



まさか……



糞じゃね?


糞?


糞になってる?



え……



糞に転生とか最悪なんだけど。


これ動物の糞か?


せめて人気女優の大便になりたかったんだけど。

しかも出来ればめっちゃ太いやつ。

前の日の高級フレンチ料理からうんこになりたかった。


女優の口で噛み砕かれて

唾液まみれになってから

食道、胃、小腸、大腸、肛門

全てに触れあって消化液にまみれて

生み出して欲しかった。


てか、

やっぱり便にも意識あるのかよ。


これ知ってたら

もう少し躊躇してからトイレ流していたかもな。


でも、

一気に流してあげるのが幸せかな。

苦しみは一瞬だから。



あれ……

次は吸い込まれていく感覚がある。


僕、

土の栄養になっていってない?


随分、人間の人生と比較して

短くない?


転生系ってここからがストーリー長いよね。


むしろここからがメインだよね?


僕の場合は糞って

普通に短すぎるでしょ。


これで終わりかよ。



あれ……



生えてる。




僕、生えてない?


急に背が高くなった気がするんだけどって


糞から養分からの木に転生かよ。


そんなのありかよ……。



逆にこれから何年生きるんだよ。


動けないじゃん。


これから何年同じ景色を見続けるんだよ。


でも……

まぁ、いいか。



これはこれで。


今回の人生では(人生と呼んでよいのか?)

ゆっくり景色を眺めようじゃないか。

前はゆっくり見れなかったからね。

うつりゆくこの景色を。


雨が降って

僕を濡らしてくれた。


誰かが涙してくれたのかなとか

都合よく考えてみる。


良いじゃないか。



全ては僕と、

これを認識している

そこのアナタで作り出した世界なんだからさ。


追伸


それにしてもよ……

異世界転生し過ぎだって。


でも、体験してみて思ったわ。


これ飽きないかも?

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飽きたわ。異世界転生し過ぎだって 水妃 @mizuki999

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