兵士は自由の夢を見るか?

椅子翁 孔仔

第1話 

ベッド側面に置かれたサイドテーブルの上のアナログ時計からなる「ジリジリジリ」という音で目が覚めた。時計を止めるために上半身を起こしその不愉快な音を止めた。ここまで起きてしまえば、また寝ることはできない。横にいる妻は一瞬起きたようだけど姿勢を変えて目を閉じていた。まだ眠りたいようだった。

「仕事に行かなくてもいいのか?」正弘はいった。「朝ごはんを用意しておくから目を覚まして───」

「……昨日仕事は辞めてきたわ」妻の声には半ば諦めのようなモノがこもっていた。

正弘は驚き先程まであった眠気が目に見えて無くなった。

「どうして……!あんなに頑張っていたのに、それになんの相談もなしに……」

正弘は妻へ手を伸ばし肩に手を置いて心配そうに言った。

「不器用なお巡りの手なんてどけて」

「私は憲兵だ、お巡りじゃない」

「それ以下よ」「一日中外を彷徨いてこいつが怪しい、あいつが怪しい。そうやって市民を疑って!家にだって滅多に帰らないじゃない!」

「それとお前が仕事を辞める理由とどう関係あるんだ?!」

「関係あるわ!仕事から帰ってきてあなたすらいない…その気持ちあなたには分かる?」妻はベッドから飛び起きてその迫真の表情で訴えた。「それにあなた明日からアフリカでしょ?当分会えないじゃない。それなのに詰まらない仕事なんて……」

出来ない、そう言いたいのだろう妻は。

「……すまない」正弘は妻の手を握りばがら言った。

「………」

妻からの返事はない。

正弘は妻を心配そうに見届けた後寝室の扉を閉めた。正弘は朝飯をしたづつんだ後憲兵隊の服に着替え始めた。国防色の軍服に制帽、膝下まである鉄板入りの重い長靴、腰には八五式拳銃と四五式軍刀を携えて仕事に向かう。

「いってらっしゃいませ」

「ああ、妻の事は頼んだよ洋子さん」

「はい」家政婦の洋子は深くお辞儀して、主人を送り出した。


正弘は迎えの車の中から自分が住む街を眺めていた。(コレが私が守った町、これから守る町)近年市長や財閥主導によりこの街は大きく発展してきた。山沿いに走る環状都市高速は県内外からのヒト・モノの流れを加速させた。それに伴い、都市は発展を遂げ人口増加、物価も上がり今までにないほどこの街は景気がいい。そして日本全体でも稀にみないほどの好景気が後押しし現在では大手財閥主導に計画された海上施設が建設をスタートした。今は場所の選定や本当に海上に立てられるかという検証段階らしいが今からでも完成が待ち遠しい。


職場は市内の山の中に作られた日本陸軍基地、神野基地である。所属部隊は歩兵第22連隊:歩兵大隊、機械化歩兵中隊、砲兵中隊、山岳歩兵中隊、情報小隊、銀輪部隊憲兵隊であり正弘は憲兵隊に所属階級は准尉である。今日は新しい仕事が入ったそうで街中の事務所にまで呼ばれた。第10憲兵隊管区本部、明治時代に建てられたこの建物はそのままの景観を残し今でも使用されて貴重なことから観光客も時折立ち寄るほどである。その度に一般人が入れるところなどで施設案内や我々の業務を知って頂いている。今日は少佐からのお呼びだそうでそのまま部屋に向かう。

部屋には誰も居らず、下士官からは「ここで暫くお待ちください」とのこと。少佐の人を待たせる悪い癖は治らないものだ。数分もすると少佐は部屋に入ってきた。

「久しぶりだな正弘、元気そうじゃないか」

「来ないかと思いました」

「最後にここにはきたかったものあるが、からの指示でな」

「エチオピアの件知っているな?」

「…はい」

「交戦から一週間たっているが、現政府側は既に戦闘不利になっているらしい、アメリカやソ連の介入があった様だ」

「その話は憲兵の方でも」

「ほぉ、話が早いな流石わ元は内閣情報局エージェント」

「空挺師団に所属してその後陸戦隊に入隊後中野学校の指導部に配属されると言う異色の経歴を持つ貴方と比べれば、雲泥の差です」

「そうか?いずれ君も似たような、いやそれ以上の経歴を持つことになるさ」

「はい、あなたを目指して」

「…話が逸れたな今回の一件山岳歩兵を一時的に第一山岳歩兵師団に返還することが決まった」

「と言う事は……」

「ああ行くのはボーラシャカが居る第一山岳歩兵師団だ」

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