第27話 どこで迎え撃つ?
イプ=スキ族が予告した「次の満月の日」まで、あまり間が無い。
わたしはヘルシラント族の有力者を集めて、戦い方について軍議を行っていた。
偉そうに啖呵を切っておきながら、やっぱりアクダムは来ない。だが、どうも怪しい気がするし、指示通り動いてくれるとは限らない。重大な会議に呼ばないのは正解なのかもしれなかった。
リーナが、周辺の地図を出して説明してくれる。
「イプ=スキ族は、本拠のイプ=スキを出て南に向かい、森を抜けてからはナウギ湖の湖岸沿いを南下して、ヘルシラントまでやって来るものと考えられます」
彼らの本拠であるイプ=スキから、南側には森林地帯が広がっている。このあたりまでは、彼らイプ=スキ族の縄張りなので手が出せない。
その先の中間地帯には、ナウギ湖が広がっているので迂回しなければならないが、西岸は山に近接していて通れないので、狭いながらも平野があるナウギ湖畔の東岸沿いから下ってくる事になる。
ナウギ湖畔を南に過ぎると、その先は平原、そしてすぐにヘルシラント周辺の村落に到達する。
「……となると、平原に出られる前、ナウギ湖畔のどこかで迎え撃つしかないわね」
わたしは地図を指さしながら言った。
「そうですね」
リーナも、部族の皆も頷く。
湖畔を抜けて、広い平原まで出られてしまうと、イプ=スキ族の騎馬隊の機動力が最大限に生かされてしまう。
わたしたちが平原に陣を張ったとしても、イプ=スキ族の弓騎兵に陣地の外側を縦横無尽に駆け回られ、好き放題、矢を打ち込まれるだけだろう。
更には、陣地を迂回されてそのままヘルシラント周辺の村や、本拠の洞窟を襲われてしまう心配がある。
となれば、平地の幅が比較的狭いので回り込まれる心配がなく、少なくとも必ず正面から戦えるであろう、ナウギ湖畔の東岸で迎え撃つしかない。
ただ、正面から陣を敷いて向かい合ったとしても、それだけで良いわけではない。
確かに、側面や後ろから回り込まれる心配はなくなる。
しかし、わたしたちヘルシラント族よりもイプ=スキ族の軍勢の方が多いし、狭くとも平地なので弓騎兵が自由に動き回れる事に変わりはないのだ。
ヘルシラント周辺には馬がほとんどいないので、わたしたちヘルシラント側には、騎馬兵はいない。魔光石の交易で馬を入手し、いずれは騎馬兵も充実させるべきなのかもしれないが……少なくとも今回の戦いには間に合わない。
騎馬の代わりに、長弓を持った弓兵(歩兵)はそれなりに保持している。戦闘の初期に矢を射れば、イプ=スキ族の弓騎兵にある程度のダメージは与えられるかもしれない。だけど、弓騎兵の移動速度を考えると、あっという間に接近されて、狙い撃ちされて終わりだ。
そして、弓兵が撃退されてしまうと、もうイプ=スキ族の弓騎兵に対抗する手段は無くなってしまう。後は歩兵が一方的に弓を打ち込まれる展開となって、蹂躙されるだけだ。
北方のマイクチェク族の軍勢も、このパターンで毎回撃退されていると聞く。
果たして、どの様にすれば良いのか。
わたしたちヘルシラント族が持つもう一枚の「カード」として、「ゴブリリ」であるわたしの「
……何とか、他に役立てる方法はないだろうか。
ともあれ、こうした不利な状況から、何とかして勝てる方法を考えねばならないのだった。
わたしたちは、ナウギ湖畔の地図を見ながら、うーんと考え込む。
しばらくして、わたしはふと気がついて尋ねた。
「……これは何?」
地図に引いてある線を見て、質問する。
「? ああ、これは『ナウギ川』ですな。ナウギ湖に流れ込んでいる川です」
爺が説明してくれる。
地図をよく見ると、「ナウギ川」は南方……わたしたちヘルシラント族側からナウギ湖東側の山沿いを通り、やがて西に曲がってナウギ湖に流れ込んでいた。
「しかし、普段は川の水かさはほとんど無いので、足止めには使えませんよ」
わたしの考えを先読みしたのか、部族のゴブリンが言った。
説明によると、ナウギ川は確かに、湖の東岸を横断する様に通っているので、ここを通る以上は必ず川を渡らねばならない。
しかし、普段の水かさは浅く、足元が水に浸かる程度。徒歩であれば水面から顔を出している岩を踏みしめて行けば渡れるし、騎馬であれば普通に歩いて渡れる程度の水量しかないらしい。
雨が降った直後であればともかく、通常時は少なくとも、「足を取られる」レベルの水量は流れていない。そんな程度の水かさなので、橋なども架かっていないとの事だった。
確かに、その状況では、イプ=スキ族弓騎兵の足止めにはならないだろう。
「……………」
だが……
この地形、そしてこの状況。
わたしは幽閉時代から何度も読み返した、本たちを思い出していた。
歴史の本、そして様々な戦争の場面が描かれていた本たち。
これまで読んだ本の中に、物語の中に……似たような状況は無かっただろうか。書かれていた内容、本から得た知識の中に、今回生かせるものは無いだろうか。
「……………」
しばらく地図を睨みながら考えていると……おぼろげながら、考えが浮かんで来た気がする。
その考えを確かめたくて、わたしは皆に呼びかけた。
「わたしに考えがあります。現地を見に行きましょう」
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