第25話 開戦に備えて
「……迎え撃って戦います」
わたしは、ヘルシラント族の代表たちを前に、宣言した。
ヘルシラントの集落のみんなを洞窟に避難させて、籠城。これまで、イプ=スキ族が略奪に来た時の対処は、いつもこの流れだった。
だけど、今回は違う。
イプ=スキ側は降伏勧告に来た上での行動だし、わたしたちヘルシラント側は、彼らの要求を拒否している。それに、いきなりの攻撃ではなく、わざわざ攻撃日時を予告して来ている。
この状況で取る行動が、いつも通りの「戦わずに籠城」はありえない。この行動はつまり、イプ=スキ側が洞窟の外……村落や畑などを略奪するのを、指を咥えて見ているだけという事になる。
彼らにケンカを売る形となった今回の開戦経緯で、そんな事をすれば……ヘルシラントの、そして、族長であるわたしの立場が無くなる。部族の名は地に落ちるだろうし、そんな事態を招いたわたしは族長の座を追われる事になるだろう。
そうなれば、ヘルシラント族は内部から崩壊して、結局いずれはイプ=スキ族の軍門に降る事になる。
そう考えれば、少なくともヘルシラントから軍勢を出して、迎え撃つしかないのだ。
「……戦います。彼らとの戦いが避けられないのであれば、迎え撃つまでです」
改めて、わたしはそう答えた。
そうだ。どうやって迎え撃つのかは決まっていないけれど、戦うしかない。
「……そうですか。ならば何も言いますまい」
わたしの返事を聞いたアクダムは、妙に殊勝な態度で言った。
「攻めてくるのは次の満月の日ですな。微力ですが、儂らも兵を出して協力致します」
思わぬ言葉に、驚いてアクダムを見た。
「……本当ですか?」
「我がヘルシラント族の危機。ヘルシラントの一員である儂が、族長であるりり様に協力するのは当然のことです」
唐突に殊勝なことを言い出すアクダム。
「アクダム派直属の兵力は、ヘルシラント全体の4分の1程です」
リーナが横から補足説明してくれる。
「アクダム殿始め、一族の方は攻撃魔法が使えますし、心強い戦力にはなるかと」
「その通りです!」
会話にアクダムが割り込んできた。
「儂の直属の兵! そして魔法戦士を有する我らをお役立て下され! 戦の当日は、りり様のお側に布陣して、お守り申し上げますぞ!」
妙に協力的な態度で、アクダムがわたしの手を取る。
どの様な思惑で、こんな事を言っているのだろうか。
……逆に、その態度が何だか怪しかった。
……………
こうして、次の満月の日に攻めてくる、イプ=スキ族と戦う事になった。
しかし、どうやって戦うのか、そして勝つのか、それが問題だ。
イプ=スキ族が攻撃を予告している「次の満月の日」が、ある程度先とはいえ、それほど余裕が無い事がネックになっている。
もしも期間に余裕があれば、「魔光石」などを報酬の財源として、取引のある人間の街……「灰の街」や「カイモンの街」から傭兵や冒険者を雇い、兵力を増強する事もできたかもしれない。
だが、日程を考えると、今回は手配するまでの時間的な余裕は無い。
そうなると、ヘルシラント族の手勢だけで、打って出る……どこかで迎え撃つしか無いが、イプ=スキ族の軍勢との差を考えると、全体的に不利だとしか言えない。
我がヘルシラント族は、兵力でイプ=スキ族に劣っている。それだけでなく、彼らの様な騎兵は全く保有していない。
この状況で、イプ=スキ族の弓騎兵を、平地での戦闘で破るのは困難だ。
守る側の有利、はあるかもしれないけれど、それにしても軍勢の質と量に大きな差がある。
迎え撃って野戦を仕掛けたとしても、状況は不利だし、敗れれば被害も犠牲者も出て、より悲惨な状況が待っている。
だが、籠城戦をすれば、洞窟外の村落は略奪され放題となる。
形の上では、わたしが降伏勧告を拒否して戦争が始まる形になる。そうした状況で、実際には戦わずに、部族が略奪されるのを傍観するしかない……となれば、ヘルシラントの名は地に落ちる。
そして、部族内において、わたしの立場は無くなるだろう。アクダム派が巻き返してクーデターを起こし、族長の座を追われるかもしれない。
そして、そのアクダムが怪しい。
更に、先ほどはわたしを批判しておきながら、戦闘に関しては妙に協力的な態度が、逆に怪しい。状況を考えると、わたしを追い落とすために、戦争のどこかのタイミングで、アクダムが変な動きをするかもしれない。
考えれば考えるほど、わたしに、そしてヘルシラント族側に、不利な点だらけだ。
彼らに無くて、こちらが持っている点としては、わたしが「ゴブリリ」だということ。わたしの持つ、「
もう時間はあまりないけれど、イプ=スキ族とどう戦うか。情報を収集して、じっくり考える必要がありそうだった。
わたしは、リーナや爺、そして(アクダムを除く)ヘルシラント族の有力者を集めて、戦場に関する情報を集めて、相談する事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます