第12話 状況整理と課題
わたしが「スキル」に目覚めて、改めて族長の座に就いてから、しばらくが経った。
「……というのが、現在の我々の状況ですじゃ」
「ありがとう、爺」
わたしは、爺とリーナから、この世界やこの大陸の状況、そして、我がヘルシラント族が置かれている状況についてレクチャーを受けていた。
何しろ、生まれてからこれまでずっと幽閉されていたのだ。本からある程度の知識は得ているとは言っても、やはり改めて外の世界について知らねばならない。
それに、幽閉が解かれた今、わたしはヘルシラント族の族長として、部族を率いていかねばならない。幽閉中も、本の知識に加え、爺やリーナから少しは教えて貰ってはいたけれど、これからはこうした社会情勢を把握する事が、より重要になってくる。
わたしを支持してくれるヘルシラント族のゴブリンたちが、幸せになれる様に導く責任がある。それに……ゆくゆくは、他部族も含め、全てのゴブリンを仲間にして「ハーン」の座に就き、ゴブリン全体を繁栄に導く。
それが、「ゴブリリ」として生まれたわたしの使命だ。
目標が壮大過ぎて、まだ実感は湧かないけれど、まずは目の前にある事柄から一つずつ解決していこう。
「当面の問題は、周辺部族との関係です」
リーナが心配そうな表情で言った。
「りり様は、確かに『ゴブリリ』として覚醒されましたが、残念ですが、大昔の様に、その事だけで各部族が服属したり、諸部族を束ねるハーンとして推戴されるわけではありません」
「そうね……」
わたしは頷いた。過去二代の「外れスキル」女王のために、「ゴブリリ」の期待度がほぼゼロになっている状況は、今でも変わらない。
『ゴブリリ』だというだけで、名声や権威が無条件で得られる様な時代では、もはや無いのだ。
「……むしろ、『ゴブリリ』は舐められている存在です」
そう言って、リーナがわたしを見た。
「我が部族の長に『ゴブリリ』である、りり様が就いたことで、むしろ……付け込む隙有りとして、周辺部族に侵略される恐れすらあります」
これまで、アクダムに事実上、族長の座を奪われていたわけだが、ゴブリン魔道士であるアクダムがトップにいた事が、一定の抑止力になっていたらしい。わたしが族長の座に返り咲き、アクダムが失脚した事は、皮肉にも抑止力を失わせる事になってしまっていたのだ。
「特に、北隣のイプ=スキ族には注意が必要ですじゃ。あやつらは油断ならん」
爺も深刻そうな表情で同意する。
「これまでも時々略奪の被害に遭っていますからね」
「そうなの……」
北隣に住むイプ=スキ族は、ずっと以前からヘルシラント族領内への侵攻を繰り返している。軍事力が高いために太刀打ちできず、ヘルシラント側は洞窟に籠城するしかない。その間に、悠々と周辺の集落や畑を荒らしていく、宿敵なのだった。
「周辺部族に付け込まれないためにも、りり様自身に実力があるところを、周辺部族に示す必要があります」
リーナの言葉に、わたしたちは三人でうーんと考え込んだ。
実力を誇示、と言っても、わたし自身の「スキル」を考えると、それが難しい。
周辺部族に使節を送り、「スキル」に目覚めた「ゴブリリ」としての族長就任を宣言する? いや、そんな事をしても、「ゴブリリ」に権威がない現代では、何かが変わるわけではない。
だからと言って、わたし自身が各部族の集落に乗り込んで「スキル」を誇示する、というのもあまり意味がない。そもそも戦闘向きでは無い能力だし、見せ方を誤ると、自身の命が危ない。
あくまでも「採掘」能力であって「消滅魔法」ではない事がバレると、命が危ないし、いずれにしても見た目が地味なので、実力アピールのための「派手さ」に欠ける。
大きな山や岩を一瞬で消せる……とかであればともかく、指の長さ四方程度の大きさをコツコツと消せる(採掘できる)だけの能力。これでは見る者を畏怖させる事はできないだろう。
どうやら、この点は先々に向けての宿題になりそうだった。
「……しかし、その前に、まずは我が部族での支持を更に固める必要がありますな」
爺が言った。
「りり様がお力を見せて、正式に族長に返り咲いたとはいえ、アクダム派は健在です」
「まだ、部族の4~5割程はアクダム派ですわね」
リーナも頷いた。
我が部族内で、各派閥は概ね固まって生活しており、洞窟の半分弱、そして洞窟外集落の三分の一程は、アクダム派が固まって暮らしている状況だった。
「りり様が族長にふさわしい働きを見せて、少しずつ、りり様を支持する者を増やしていく必要があります」
こちらも難しい宿題だ。
だけど、今後のためには必ず成し遂げねばならない事でもある。
やはり、部族における内政を、わたしの「スキル」を生かしながら地道に進めていく、という事になるわけだが……。
わたしの「スキル」である「
だが、具体的には何ができるのだろうか。考えねばならない。
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