第2話 歴代のゴブリン女王たち、そして自分

 わたしは改めて、自分の周りに置かれている……これまで何度となく読み返した本たちを眺めた。

 これらの本には、過去の「ゴブリリ」女王たちの歴史が、そして彼女たちの物語が、彩り豊かに描かれている。



 「ゴブリリ」として生まれたゴブリンは、ある年齢になると「ゴブリンの神」から特別な力……「スキル」を与えられる。

 「ゴブリリ」女王に与えられる「スキル」は様々だ。


 過去に活躍した「ゴブリリ」たちは、燃えさかる流れ星を降らせた者、幻覚を駆使した者、姿を自在に変えた者など……こうした、ある意味、神の領域と言える程の力を駆使したと伝えられている。

 歴代の「ゴブリリ」たちの、様々な「スキル」とその活躍……それは、わたしが愛読している歴史書や小説にも描かれている。


 いずれにしても、強力な「スキル」を持った「ゴブリリ」の登場は、かつてはゴブリンたちにとって、繁栄の時代の到来を意味していた。

 魔物たちの間でも弱い存在で、普段は小部族に分かれ、人間や他の魔物に脅かされながらも、互いに下らない部族間の争いに明け暮れて、その力を無駄に消耗し、細々と生きているゴブリンたち。


 そんなゴブリンたちにとって、約百年に一度出現する「ゴブリリ」は、強大な「スキル」に基づくカリスマ性を発揮して、彼らを導き、統合する存在だった。

 そして、「スキル」を駆使して勢力を拡大して、ゴブリンたちを繁栄に導いてくれる救世主であり、英雄になりうる存在なのだ。


 いや……。救世主であり、英雄になりうる存在……「だった」。



 こうした強大な「スキル」でゴブリンの歴史を彩ってきた、ゴブリン全体の救世主となり、種族全体の勢力を増してくれる「ゴブリリ」、そしてゴブリン女王の姿。

 わたしが大好きな本たちに描かれている、彼女たちの物語。物語の中で活躍している、様々なゴブリン女王たち。

 しかし、それはもう……歴史の彼方に過ぎ去った、過去の話だ。



 ゴブリンたちを導く、強力な「スキル」を持っていた、歴代の「ゴブリリ」。

 300年ほど前までは……確かに、そうだった。


 しかし、ここ最近、過去二代に渡って出現した「ゴブリリ」の「スキル」が、役に立たない、「外れ」だったために、この現代においては、もはや「ゴブリリ」は全く期待されない存在に落ちぶれていた。



 二代前の「ゴブリリ」は、「魔法無効化能力」。要するに「魔法が効かない」という「スキル」を持っていた。

 ある意味、極めて強力なスキルなのかもしれないけれど、しかし、元々ゴブリンは、ほとんど魔法などは使わない。

 そんなゴブリン社会の中では、魔法無効化能力などは役に立たず、彼女は部族間の争いで早々に討たれてしまった。



 そして、極めつけが、百年ほど前に生まれた、先代の「ゴブリリ」だった。

 生まれついての女王という事で、大きな期待を寄せられた彼女。本人も悪い意味で自覚が高く、幼少期から「スキル」に目覚めるまでの日々を、ゴブリン令嬢として贅沢三昧、威張り続けたと伝わっている。


 しかし、目覚めた能力が、よりによって……「尿の色を変える」スキルだった。


 この事が判明した瞬間に、それまで傍若無人に振る舞っていた報いもあり、彼女は部下達にフルボッコにされた上で、殺害されたのだった。

 このことが、ゴブリンたちの歴史に、そして記憶に刻まれた結果……「ゴブリリ」は、誰からも期待されない存在になったのだ。


 それから、およそ百年。

 「尿の色を変える」女王の次に、「ゴブリリ」として生まれて来た、わたし。

 歴史上の伝説となった「ゴブリリ」女王としての活躍は、もうほとんど誰からも期待されていない。

 しかし一応は百年に一度しか生まれてこない、特別な女王候補「ゴブリリ」であり、万に一つくらいは、まともな「スキル」に目覚めるかもしれない。

 そんな理由で、生まれてからずっと、玉座にいながらも、幽閉という扱いを受けているのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る