水面の月

佐藤ムニエル

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 大きな縦揺れに、閉じていた瞼を開ける。何か途方もない夢を見ていた気がするが、思い出せない。爆音というべきエンジン音が意識に流れ込んでくる。続いて、金属の軋みと大きな縦揺れ。揺れは断続的に起こり、覚醒のきっかけが何だったのか振り返る暇もなく上書きされていく。

『もう起きたのかい?』頭の中でコンシェルジュAIクラウスの、変声前の少年のような声がする。『到着までまだ三十分はあるよ』

「こんな状況で眠れるほど神経太くないの」わたしは発声する。頭の中で言葉を練る余裕がない。この音では操縦士に聞こえる心配もないだろう。「他の移動手段はなかったの?」

『海は大時化。波がなくたって、例の要因のせいで島へは近づけない。カナヅチの君にとっては最悪の事態になり得る可能性が高い』

「ソロクラフトは?」

『あんな小型機ではもっと揺れるよ。到着する頃には、君は昼食まみれになっているかも』

 想像してみる。これが失敗だった。わたしは手近なところに置いておいたプラスチックの籠を取り、その中へ顔を埋めた。

『ブリーフィングは——やめた方がよさそうだね』

 クラウスの声が遠くで聞こえた。

 腹の底からせり上がってくるを乗り越えた後、わたしは口の中に酸味を感じながらつぶやく。

「どうして〈くだん〉はわたしを海の真ん中にばかり行かせようとするの?」の反乱未遂からこっち、わたしの仕事はほぼ全てが海か、その近くにある施設だ。量子サーバは内陸にもあるというのに。

『この国は海洋国だからね。確率としては妥当じゃないかな』

「嫌がらせを受けている気がする」

『まさか』肩を竦める姿が目に浮かぶ言い方。『〈件〉だってそこまで暇じゃないよ。ちゃんと有効性を算出した結果さ』

「全ては〈件〉の思し召し」

『君はこの任務に適任と判断されたんだ。ナギ・タマキ少尉』

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