第23話 祓い屋の血筋

 茅野中学校の人形事件。そして御堂君との、朝チュン事件(?)の後。

 酔いつぶれて御堂君の部屋で朝を迎えたことを前園ちゃんに報告したところ、それはもうこっぴどく怒られた。


「どれだけ迷惑かける気ですか! 御堂さんが紳士じゃなかったら大変なことになってましたよ!」


 顔を真っ赤にして怒る前園ちゃん。事務所の床に正座させられて、お説教の嵐。まるでヤンチャな娘と、それを怒るママみたいだよ。

 あげく最後には当分飲んじゃいけませんって、禁酒を言い渡されちゃった。びえーん(泣)!


「それにしても御堂さん、よく手を出してきませんでしたね」

「それはほら、彼にも選ぶ権利があるってことだろ」

「何もそこまで卑屈にならなくても。それだけ火村さんのことを、大事に思ってるってことなんじゃないですか? 火村さん、こんな優良物件もう二度とないかもしれないんですから、逃しちゃダメですよ」


 目を輝かせながら、そんなことを言ってくる。

 うーん、どうも前園ちゃんの中では、あたしと御堂君がそういう関係になっているみたいだねえ。


 だけどあたしは、それを肯定することも、否定することもできなかった。

 あたし達は決して前園ちゃんが思っているような関係じゃないけど、あたし自身はどう思っているかって考えたら、よく分からなかったから。

 最近の御堂君の態度を見ているとなんかこう、ね。


 で、そんなやり取りがあってから数日がたった今日。前園ちゃんから御堂君を事務所に連れてくるように言われた。

 大事な話があるそうで、御堂君に連絡したら彼は菓子折りを片手に、大急ぎで事務所へとやって来た。


「御堂竜二さんですね。前に電話でお話しさせていただきました、前園です。その前にも一度、飲み屋であっていますけど、覚えてらっしゃいますか?」

「はい、前園さんのことは、火村さんから聞いています。火村さんには、いつもお世話になっています」

「いえいえとんでもない。火村さんの方こそ、迷惑かけてばっかりでしょう。不束な娘ですが、これからもどうかよろしくお願いします」


 ペコペコとお辞儀を繰り返す二人。

 って、オイコラ! なんだこの、彼氏を親に紹介しましたごっこは!


「前園ちゃん、ふざけるのもいい加減にして、早く話を進めてよ。こんな小芝居するために、御堂君を呼んだわけじゃないんでしょ」

「あたしはいつだって真面目です。けどまあ、そろそろ本題に入りましょうか。実は例の、いじめにあっていたかもしれない女子生徒。眞壁雅さんについて調べていたのですが、ある事実が分かったんです。大事なことなので、御堂さんも知っておいた方が良いだろうと思ってお呼びしました」


 テーブルに肘をついて手を組み、どこかのアニメで司令官がやるようなポーズを取る前園ちゃんに、あたし達は顔を見合わせる。


「眞壁雅さんのご両親が交通事故で亡くなっているのは、知っていますね。今回わかったのは、そのお母さんの方。結婚する前の旧姓が伊神って言うんですけど、この伊神家。かつては有名な祓い屋の家系だったんです」

「なんだって?」


 全部がそうという訳じゃないけど、霊力は親から子に遺伝する場合が多い。

 あたしもそうだけど、故郷である祓い屋の里に行けば、親兄弟全て霊力を持っている霊力一家も、珍しくないからね。


「昔は結構な名家だったみたいで、この伊神家ご先祖は悪霊祓いの他にも、いたずら好きの狸を凝らしめたり、狂暴な鬼を封印したりしてたみたいです」

「狸や鬼? 幽霊以外に、妖とも戦っていたのですか?」


 御堂君は驚いているけど、時に祓い屋は妖怪退治をすることだってあるのだ。

 あたしも前に、川で悪さをしていたカッパと相撲で勝負して投げ飛ばしたことあるしね。


「妖かあ、会ってみたいかも」

「いつかあたしが会わせてあげるよ。けど気を付けてね。良い妖もたくさんいるけど、中には人の恐怖や絶望といった負の感情を食べる、厄介者もいるから」


 そいつらは本当に質が悪い。何せ負の感情を抱かせるために人間を襲うなどの、悪さをするのだ。

 そんな悪い妖は、見つけ次第即成敗だよ。


 まあそれはさておき、問題は雅ちゃんの方。

 祓い屋の家系かあ。今回の事件で犯人はネット動画に呪いを仕込んだりら人形を術で操ったりと、霊力由来の術を使っていたけど、それなら辻褄があう。


「どうして術を使えたのか疑問だったけど、謎が解けたよ。雅ちゃんは家に伝わっていた術を使って、一連の事件を起こした。彼女は事件が起きた中学校に在籍していて動機もあるし、もう犯人と見て間違いないだろうね」

「あたしもそう思います。ただ、一つ気になることがあるんです。実はこの伊神家、もう何代も前に祓い屋を廃業してるんですよ。なんでも、力が弱まって霊力を受け継がなくなったとか」


 ああ、そうなんだ。

 御堂君が「どういうことですか?」って聞いてきたから解説しておこう。

 さっき言った通り、霊力は血筋によって受け継がれていく場合が多いけど、絶対ってわけじゃないんだよね。産まれてきた子供の霊力が極端に弱かったり、あるいは全く受け継がなかったりすることは、たまにある。


 そして一度そういうことが起きると、その家系の霊力は徐々に失われていくケースが多い。

 だから祓い屋の家系では、霊力を持たない子が生まれたら忌み子扱いされることも多いとか。

 なんとも気分が悪くなる話だよ。家業は大事だし、あたしも誇りを持っているけど、子供だって望んでそうなったわけじゃないんだからさ。冷たく当たるのは、筋違いってもんだ。


「霊力を失って、祓い屋を廃業した家系ですか。でも聞いた話では、眞壁さんは幽霊が見えていたようですけど?」

「もしかしたら世代を越えて、霊力が甦ったのかも。普通の家でも、突然高い霊力を持った子供が生まれる場合もあるからね。元々力を持っていたのなら、隔世遺伝が起きても不思議じゃないよ」

「けどそれだと、不可解な点があるんですよ。眞壁さんが力を持っていたとしても、それだけでは術は使えません。力を使いこなすためには、誰かから習わなきゃいけませんけど、何代も前に祓い屋を辞めたのなら、いったい誰に習ったのでしょう?」


 ん、そういやそうだね。

 あたしも御堂君も疑問に答えることができず、三人して黙り混む。

 だけどいつまでもこうしていたって拉致が明かないよ。


「とにかく、眞壁雅ちゃんが怪しいことに変わりはないんだから。後は居場所を調べて会いに行って、直接本人に聞いて確かめれば良いじゃん」


 茅野中の事件の後、怪談チャンネルは更新されていないけど、このまま大人しくしているとは限らないのだ。

 これだけ状況証拠が揃ってんだから、もう乗り込んだっていいよね。


「生憎呪いを取り締まる法律は無いけど、この前のマカリちゃんの人形の件。あれは明らかに人に危害を加えるものだったからね。確かな証拠さえ押さえられたら、好き勝手することはできなくなるよ」

「あれはやりすぎでしたからねえ。それと眞壁さんの居場所ですが、僕の方で既に掴んでいます」

「お、流石優秀だねえ」

「調べるのも仕事ですからね。眞壁さんは事故でご両親を亡くした後、親戚に引き取られたのは火村さんも前に聞きましたよね。さっき前園さんの話を聞いて気になったのですが、その親戚と言うのが、伊神姓なんですよ。どうやら引き取った親戚の家が、祓い屋の本家みたいですね」


 正確には、祓い屋だけどね。

 前園ちゃんといい御堂君といい、二人ともしっかり調べてくれていたんだねえ。


「で、その伊神家ってのはどこにあるの?」

「四国のE県です」

「それはまた、ずいぶん遠いね。すぐに行ける距離じゃないか。前園ちゃん、出張扱いにしてもらえる?」

「分かりました。あと、さすがにいきなり押しかけて問い詰めるわけにはいきませんけど、どうやってアポを取りましょうか。まさか、アナタのことを疑ってるから会って話を聞きたいとは言えませんからねえ」


 あー、その問題があったか。

 生憎あたし達は警察じゃないから、礼状を持って強制捜査をするなんてできないのだ。

 だけどここで、御堂君が提案してくる。


「それでしたら僕の方で眞壁さんではなく、動画配信者の仮死魔霊子さんに取材を申し込むというのはどうでしょう? 月刊スリラーで、心霊動画配信者のインタビュー記事を載せたいということにしておけば、話に乗ってくれるかもしれません」

「お、それいいね、さすが編集者。じゃあそっちの交渉は任せたよ」


 今まで手を出せなかった仮死魔霊子に、これでようやく迫れるってもんだ。

 こうしてこの日は細かな打ち合わせをして解散し、次の日には御堂君から、仮死魔霊子が取材に応じてくれたと連絡があった。


 そして指定された取材の場所は、やはりと言うか。

 E県の、眞壁雅ちゃんが住んでいる町だった。

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