光るあめ

わらび餅

第1話

光り輝く海が見渡せる高台に、ある一軒の図書館がある。そこでは、毎月ある行事が行われる。



外は、突然の雨降りで歩く人の服を染めていくと言う、災いが起きている。私も被害者の1人だ。軽くハンカチで滴り落ちる雨を拭き取り、レトロ感のある扉を引く。


入館時の鈴の音が今日も頑張るぞって気持ちを奮い立たせる。


「おはようございまーす。店長さん今日もよろしくお願いします」


私が、いつも通りの挨拶をすると一つの扉が開く。そこから、中年太りした笑顔のかわいらしいおっさんが出てくる。「おはよう」と一言いい、雫模様の椅子に座る。


「今、雨降ってますよ」

「それは本当かい?困ってしまったよ」

「止むといいですね」


私は、扉の先にある更衣室へと向かった。


雨で濡れている服をハンガーに掛け、扇風機を向ける。服が風に吹かれ少しなびいている。


制服へと着替える途中、雨が降っている日はいつも考えてしまうことがある。


「店長さん可哀想だな」


店長さんは、雨が大好きだ。もっと言えば、傘をさして雨のときにしか見れない「光る雨」の景色を見に行く事が好きらしい。なのに、世界でも100人にも満たないという"水アレルギー"持ちなのである。水が触れると15分程度で赤くなり痛みを伴うそうだ。


10代の頃は、健康体だったらしいが25歳の時に突然水アレルギーになったらしい。なぜ発症したのか医師もお手上げだそうだ。


こんな事を考えながら制服へと着替え終わり、札をCLOSED からOPENに変えに行く。


外では、雨音と共に話し声や笑い声が聴こえる。今日は、第3日曜日。普段の日曜日はお休みだが今日は月に1回の特別な日だ。


「今から1時間後、光るあめを降らせまーす!」


レトロな扉を明け、叫んだ。すると、「やったー」とか「楽しみ」といった喜びの声が帰ってくる。子供の声も聞こえれば大人の声も聴こえる。


このイベントは、全員が楽しめる最強のイベントである。考えた私は、天才だな。


「そうですね。あなたは天才ですよ」


えっ、どうやら口に出ていたらしく、聞かれてしまった。「超恥ずかしい」と思ったが、小さな子供が「おねえちゃん天才!」と言ってたくれので恥ずかしさなんかより嬉しさが勝った。子供からの純粋な褒め言葉は世界で1番嬉しい。


この仕事をしていて、こういう時間がとても大好きだ。もっと大切にしよう。


☔️


開店から1時間がたった。お客さんはさらに増え、館内が人で溢れかえっている。光るあめを降らせるべく、お客様にちょっとしたホールみたいなとこに移動してもらう。


この場所は、私がこのイベントを提案した時に店長が新たに増築してくれたところだ。ほんとに優しい店長である。


せっせと準備をし、光るあめを降らす準備が整った。私は、学校のグラウンドにある校長が乗る台に乗り、全体を見渡す。隣には、あめが大量に入った箱と店長がいる。


良し、始めるか。


私は、あめを腕いっぱいに抱え天井へと投げる。投げたあめは宙で広がり電気の光を反射して輝き、放物線を描きながらお客さんの元へときらりと落ちていく。


まるで「光る雨」のように―――。


そう。このイベントは、店長さんのために始めた。店長が何度でも「光る雨」が見れるように。


店長さんの方を見ると、少し涙ぐんでいるようだ。やっぱり私は天才だ。人を喜ばせる天才だ。


これから先もこのイベントは続いていくだろう。何年経っても。


店長さんが生きている限り「光る」は降り続ける。








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光るあめ わらび餅 @warabimoti1

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