第80話 爪と欠片と戦いと
三方向から切りかかる僕達を見てレオファルドは両手を広げると手のひらから血が噴き出し、それが生きているように動き出したかと思うと、どす黒い剣の形になって両手に収まった。
僕はファイアーアローをレオファルドの顔に向かって撃ちながら低い姿勢で間合いを詰めたが、一番早くレオファルドにたどり着いたのがバイスだった。
バイスは四足歩行で近付き足を狙って爪を突き出したが、それをレオファルドは右手の剣で薙ぎ払った。薙ぎ払いの一撃は見た目は軽そう撃だったが思ったよりも強かったみたいで、バイスは爪を弾かれて体制を崩してしまったところにレオファルドは右の剣を上段から振り下ろそうとした。
「ちぃっ!」
距離を詰めていたエイドルが舌打ちしながらレオファルドの顔を目掛けてナイフを投げるとレオファルドは振り下ろす剣の軌道を変えてエイドルが投げた剣を弾いた。
そのタイミングで僕がレオファルドを間合いに捕らえ爪を後ろから突きたてようとしたがその瞬間、世界に色が失われていった。
ゆっくりと流れる世界の中、心臓を狙って爪を突き立てていたがレオファルドの背中から血が噴き出したかと思うと、どす黒い槍がハリネズミの様に僕に向かって何本も生えて来た。
僕は伸びて来た血の槍の側面を爪で払う様に叩きつけその力も利用して横へ飛んだが避けきれず、左足に一本刺ってしまったがそのままなんとか転がり距離を取ったその瞬間、世界に色が戻っていった。
足にかなり大きな穴が空いたが蔓呪印さんを縫い付けるように這わせるとなんとか傷はふさがった。死ぬほど痛いけど。
バイスも同じタイミングで離脱したみたいで僕と反対側に距離を取っていた。
「なかなか避けるじゃないか!まぁあっさり死んだら面白くないからなぁ」
レオファルドはそう言いいながら切りかかったエイドルの剣を受け止めてもう片手の剣でエイドルを切りつけようとしたがエイドルも後ろに飛び退り距離を取った。
それから僕たちは何度も切りかかったがレオファルドの反応速度が以上に早く、僕も左足に力があまり入らずファイアーアローを撃ったり蔓呪印を鞭の様に使って中距離からの攻撃しかできなくなっていて決めてにかける消極的な戦いが続いていた。
「そろそろ飽きて来たな」
エイドルとバイスの攻撃を両腕が左右別々の生き物のような動きで防ぎ、二人を同時に吹き飛ばしながらレオファルドがそうポツリと口を開いた。
「もう準備運動は終わりだ。さっさとお前たちを殺し旨い血をいただきに行くとしよう」
そう言うとレオファルフドの魔力がどんどん膨らんでいるのがわかった。
「エイドル、バイス、異常に魔力が膨らんでいる離れよう!」
即座にエイドルとバイスが距離を取ったところでレオファルドが血で出来た剣を手放したと思うとレオファルドの周囲に野球のボールぐらいの赤黒い球体が沢山漂い始めそれがはじけた瞬間、世界に色が失われていった。
レオファルドの周りに漂っていた玉がはじけたかと思うと、そこから赤黒い光線が僕たちへ向かって飛んできた。
僕は口呪印さんで顔に当たる光線は受け止めたがそれ以外が受け止めきれずゆっくりと流れる世界の中沢山の魔法の光線を受けてかなりの距離を吹き飛ばされ、僕は館まで吹き飛ばされ世界に色が戻っていった。
「うう、ぐぁぁ」
ある程度蔓呪印で防いだお陰で体に穴は空いていないが、手足にまるで力が入らずイモムシのように地面に転がりなんとか首を動かし周りを見ると館は吹き飛び同じ様にバイスとエイドルも転がっていた。
「ふぅやっと仕留めたか、貴様らハエを退治するのにこんなに魔力を使わされるとはな」
そう言いながらレオファルドが近づいてきてエイドルの頭をつかんで持ち上げた。
「こうみえてもお前たちを間違って切り刻まないように手加減してやったんだ。血の袋が破けてしまうからな」
レオファルドはそう言いながらエイドルの首筋に牙を立てた。
まずい!このままだとエイドルが死んでしまう!そう思っても体の骨がかなり折れているみたいで力が入らず、もぞもぞ動いているとレオファルドがエイドルから口を離した。
「そんなに焦らなくてもお前たちも一滴残らず吸い付くしてやるから待っていろ」
「たのむ、吸うなら、僕から、吸ってくれ」
なんとか痛む体に鞭うって声を出すとレオファルドがこちらを見て嬉しそうに口を開いた。
「そうだな、そんなに言うならお前は特別に最後に吸ってやる」
そう言うとレオファルドはまたエイドルの首に牙を立てた。
だめだ、このままじゃエイドルが死んでしまう。やっと奥さんも子供も助かったのに!僕は咄嗟に肉球呪印に力を送った。頼むなんとか力を貸してくれ。
いつも気を失うレベルまで力を送っても僕はまだ意識を失わずさらに送り続けると胸の肉球呪印が熱くなって来た。
そして魔力が肉球呪印から溢れ出し蔓呪印が僕の体を覆い尽くすと、さっきまでの骨折の痛みは嘘みたいになくなり僕は普通に立ち上がった。
そう、何もしてないのに立ち上がった。あれ?意識はあるけど体が勝手に動いてない?
「グゥルル、オマエ・・・コロス」
僕の口からは勝手にうなり声の混ざった声が発せられ、まるで威嚇する猫の様に腕を地面についた姿勢で尻尾を立てていた。
「そうか、貴様もホーリッシュと同じ魔人か、素晴らしい、貴様の血も一滴残らず吸い尽くしてやろう!その後はホーリッシュとティーレシアもだ!」
そう言いながらレオファルドがエイドルを横へ投げ捨てまた手から血の剣を出した瞬間、見えていた世界がすべて後ろに流れて消えた。
自分の動きが早すぎて分からなかったがどうやら僕はレオファルドへ向かって飛びついたみたいで、まるで雑巾がけをするように地面にレオファルドを押し付けて進んでいた。
「ぐおぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!」
レオファルドは背中を削られながら叫び声をあげていたが、すぐに魔力がレオファルドの体に集まっているのが見えたと思ったら視界が光で埋め尽くされ、気が付くと吹き飛ばされて屋敷を突き破って裏にまで吹き飛ばされていた。
自分の体がどうなってるのか分からないけど肉球呪印の力でこれが出来ているなら何でもいいからあいつを倒してくれ!たのむ!そう思いながら肉球呪印に力を注いでいるとまた景色が流れ、気が付くとレオファルドと斬り合いが始まっていた。
早くてわかりにくいがレオファルドの剣が当たって皮膚が切れてもすぐ呪印の影がそれを塞ぎ、レオファルドも僕の爪に切り裂かれてもすぐ傷が塞がる。かなり人外な戦いが繰り広げられていた。
そしてしばらくそれが続いたと思うとレオファルドが剣で僕の爪を弾き距離を取り、手をこちらに向けるとそこにかなりの魔力が集まり高速に回転する赤黒い球をこちらに向けて撃ち出して来た。
それに対して僕は顔に向かってくる球を無視してそのまま四つん這いで向かっていくみたいで、中のぼくは目を瞑りたくても瞑れないでいると球が当たる瞬間、口を開いてその魔法に食らいつくとそのまま飲み込んだ。
レオファルドは突進してくる僕に合わせて後ろに下がりながらさらに魔法を撃ち続けながら口を開いた。
「くそっ!どうなっているんだ貴様!なぜ死なない!?なんだその力は!」
僕は急に立ち止まりレオファルドの魔法を避けていたかと思うと魔力の多い魔法を選んで食べ、急にレオファルドに向かって口を開いた途端口から真っ黒なレーザーの様な光線が飛び出してレオファルドを焼いた。
僕の口から出た光線は光の太さからは想像もできないくらいの範囲を焼きながら森を進みそのまま空へと消えていった。この星が丸くて良かった。
そしてたくさんの土煙が晴れるとそこには身体中が焼け爛れ、ボロボロになったレオファルドが立っていた。
「まさか魔神がこれ程とは、そしてこんなわけの分からないものまで使う羽目になるとはな」
レオファルドはそう言ってボロボロになった服の中から丸い球を取り出した。
あれは!リエルの欠片だ!使われる前に止めないと!!そう思って体は全く動く気配はなかった。
僕の体は四足獣の様にお座りしてじっとリエルの欠片を飲み込むレオファルドを見ていた。
「くぅ、体がはじけそうだ」
そう言いながらレオファルドは手から赤黒い帯の様な物を放出し、それが体を包むと赤黒いがディアスが纏っていた鎧の様な姿に変わった。
「これはいい!半信半疑だったが役に立つじゃないか、チカラがみなぎって来る。さぁ魔人よかかって来るがいい!」
そう言うレオファルドに僕の体は嬉しそうに飛びかかって行った。
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