第13話 猫と地面とステゴロと


 ご飯を食べた後トレーニングルームに連れてこられたので筋トレをするのかと思っていいたら、前回来た時はマシンで気付かなかったがトレーニングルームの奥の壁にはまだドアがあり、そのひとつを開けてエイドルが入っていったので僕もそれに続いた。


 中に入るとそこはテニスコート位の広さで地面には闘技場の様に土が敷いてあり、手前の壁には色々な武器と洗い場、それにフォームをチェックする為にか鏡が貼ってあった。


「これを使え」


 僕が部屋の中を見渡しているといつの間にか二本の槍を持ったエイドルが、その片方を僕に投げ渡してきた。


「おっとっとっと」

 なんとか受け取り確認すると、その槍は木製で穂先に布が巻いてあり怪我をしにくい様になっていた。要するに訓練用だねこれ。


「とりあえず見てやるから本気で打ってこい」


 エイドルは槍を構えず肩にかけたまま突っ立っていた。


 僕はどこを突けば良いのか分からないのでとにかく体の真ん中に突きを入れた。


「何となくで突きを打つな!もっと腰を低く構えて足元から突いて相手の動きの邪魔をするんだ」


 何度か突いては払われと繰り返すと不意にエイドルの動きが止まり持っていた槍を石突の方を下にして地面に突き刺して口を開いた。


「まずは基礎からだな、お前そもそも槍を持った事が無いな」


 それから意外と細かくエイドルは槍の使い方を教えてくれた。


 そんなキャラだったかと遠回しに聞くと「金がかかった仕事だ」と言ってニヤリと笑ていた。猿だけど何故かかっこよく見えた。


 学習の成果として槍は突くだけじゃなくて叩く事も出来ると言う事がわかった。


 基本は長いのでリーチを生かして遠くにいる敵を牽制で突いたり近づいて来れないように叩いたり払ったり、そりゃよく考えたらこんな長い棒で叩かれたら骨くらい折れるよね、あまり相手の武器に合わせると槍の方が折れる可能性があるので注意が必要だ、全部鉄でできた槍もあったが重くて持てなかった。


 そしてリーチが短くなった時は穂先をたぐり寄せて短く持って突く、まぁそこまで近づかせるなって話だけど知ってるのと知らないのじゃ戦いって全然違うんだね。


「後お前は体力が無さすぎる。ひたすら走れ、それから筋トレもだ」


 その後は地獄だった。筋トレのマシンで違う部位を順に負荷をかけて行ったがそれが終わらない。


「これは、はぁはぁ、いつまで、はぁはぁ、続くんですか?」


「動けなくなるまでだ」


「ちょっと、はぁ、はぁ、意味が、わからないです」


 それからたっぷり筋トレを行い、どのマシンも動かせなくなったところでエイドルが口をひらいた。


「よしそこまでだ」


 そう言ってエイドルが飲み物を渡してきた。


「はぁはぁ、ありがとう、ございます」


 コルクを抜く握力が無く、口で外し両手で持って飲んだ。


 これは前にもらって飲んだ物と違う味で少し酸味が強いが優しい甘味が有りカラカラでヘトヘトな体に染み込んで行く様だった。


「くはぁぁ、美味い!」


 これが毎日はきつい死ぬよりきついかも知れない。


「お疲れ様でした、明日も同じ時間からですか?」


「何言ってるんだ?まだ終わってないぞ」


「ふぇ!?もう体に力が入らないですよ?ほら」


 そう言って大の字になって寝転びながらプルプル震える手を持ち上げて見せた。


「大丈夫だ安心しろもう筋トレは終わりだ。次は走るぞ」


 それから僕はなんとか震える体を持ち上げ、ランニングマシンでかなりの速さを出してひたすら走らされ、息が切れて死にそうになるとゆっくりで走り、止まる事を許されずひたすら走った。


「はぁ、はぁ、もう、はぁ、死ぬ」


「喋れてるうちは死なない」


 スパルタだった、ただただひたすら走ってどれだけランニングしても終わらない、最後はゾンビの様にランニングマシンの上で歩いていた。


「よし今日はここまでだ、大体の体力がわかったから続きは明日だ」


 僕はランニングマシンから降りるとその場で崩れ落ちた。


「ちゃんとストレッチをしておけよ、後は飯を食うなら早くしないと食堂が閉まるからな」


 帰り際に「明日は10時からだ」と言ってエイドルはトレーニングルームから出て行った。


「ぐあぁー毎日これー?死んじゃうよ!死なないけど」


 そんな事を一人で言いながら這いつくばりながらストレッチをし、プルプル震える手足を引きずり食堂にたどり着くとまだ開いていた。


「よかったまだやってる」


 券売機にブレスレットを当てるとピピっと機械音がして表示が出る、正直食欲が無いが何か食べないと。


 ある程度表示の内容は確認済みなのでスープとオートミールを食べる事にしてカウンターへ札を出すとおばちゃん(熊)が笑顔で迎えてくれた。


「お疲れ様、えーっと、オートミールとスープね、ちょっと待ってね」


奥へ引っ込むとすぐトレーにボウルを三つ乗せて出てきた。三つ?


「はいお待たせ、これ今日もう終わりなの、これは余った奴だから食べてね、内緒だから」


 そう言ってたぶん笑顔で渡された。


「あ、ありがとうございます、いただきます」


 できうる限りの笑顔で返事をしてテーブルに座りボウルの中を見るとスープもオートミールも大盛りだった。しかもおまけがお肉の余った部位を甘辛いタレで炒めた物だった。


「うぇっぷ、これ全部食べれるかな」


 食べ物は無駄にしてはいけないと必死に涙目なりながら口に運んでいると、前の席に誰かが座った気配がしたので顔を上げると、トレーを持った猿の獣人エイドルがそこにいた。


「お前あんだけ動いて良くそんなに食えるな、なんだまだ余裕あるんじゃないか?明日はもっときつくても行けそうだな」


 クマ(おばちゃん)ーーーー!



 次の日、筋肉痛があるかと思いベッドで恐る恐る動かしてみると体はどこも痛くなかった。


「不死さん仕事した?」


 思ったより体調は万全だった。さすが不老不死!しんでなくても仕事するんだね。



 それから朝ごはんをしっかり食べ、嫌々トレーニングルームへ向かうとサルの獣人のエイドルともう一人猫の獣人が待っていた。確かダッシュだったかな?


「おはようございます」


 挨拶をすると二人がこちらを向いた。


「おう、ちゃんと来たな、こいつはダッシュだ。今日はこいつと一緒にやるぞ」


「やぁまた会ったね、今日はよろしくね」


 猫の獣人が片手をあげて挨拶をしてきた。顔の区別はつかないけどイケメンっぽい動きだ。


「こちらこそよろしくお願いします」


 二人があいさつするのを見てエイドルは少しの間僕たちを見ていたがすぐ興味をなくしたようで奥の部屋に向かいながら口を開いた。


「なんだ二人とも知り合いか、なら話は早いな行くぞ」


 せっかちなエイドルを先頭に奥の部屋へと向かったので後を追った。



 中に入って壁に掛けてあった槍を手に取ろうとするとエイドルがこちらを見ながら口を開いた。


「今日は素手での戦闘訓練をするから槍はいらんぞ」


「素手とかまともに戦える気がしないんですけど」


「ああ、人間と獣人では骨格も筋力も違うからな、しかし闘いでは待ってくれないだろう、それにそれを覆すのも技だ」


 部屋の真ん中当たりにいるエイドルとダッシュのもとへ向かっていくと、ダッシュが無駄にシャドーをしながら言ってきた。


「闘技場では素手で戦う試合もあるんだよ!」


 その後いろいろ試合について聞いてみると、細かなルールがちゃんとあって死んだら負けだけじゃないみたいだった。


 まぁ確かに死に負けだと、どんどん選手は減っていくもんね。


 死んだら負け以外で人気がある死なない(死ににくい)ルールにステゴロでバーリトゥード(何でもあり)っていうのが有るみたいだ。


 基本的に獣人の試合はこれが多いらしい。武器なんて自前の爪や牙で十分だって感じで、体格差がある場合や実力差がある場合は特別に武器有りと言うのもあるみたいだ。


 ちなみにダッシュは素手での戦闘が得意な様で、拳の握り方から足運びに型の様な物まで色々教えてくれた。


 それに聞いた話では戦闘奴隷はあまりいないらしい、基本的には名誉な職業であと軍人も結構研修のような形で闘技場に参加してるみたいだ。獣人は戦闘民族だねみんな。



 まぁその後ひたすら殴られ蹴られ転ばされ、痛くて長く寝転がってると踏まれた。


 

「ふぅ、13番はかなりタフだねぇ、最初の方の傷跡なんで無くなってるの?」


「あはは、い、意外と怪我が残りにくいんですよ」


 苦しい言い訳をしているとダッシュが鋭い牙を見せてにっこり笑った。


「良いね!もっと無茶できそうだ!」


 ひいいいいい!この人もただの獣人だった。


「お、お手柔らかにお願いします」


「大丈夫大丈夫痛いのは最初だけだから」


「ひぇ、なんか違うー!」


 それから後はパンチの速度もキックの威力もさっきの比じゃなかった。完全に獲物を狩る目をしていた。




「よし、今日はここまでにしようか」


 あの後さんざん僕をズタボロにして、どこか満足そうなツヤツヤした顔でダッシュが言った。


「ありがとうございました」


 そう言った僕はうつ伏せに倒れたまま動けないでいた。多分肋骨とかが折れてる痛すぎて力が入らない。


「取り敢えず型は毎日やると良いよ、センスはなさそうだけど体が丈夫だから何とかなりそうだね」


 センスはない…何となく気付いていたけどそんなにはっきり言わなくても、何でもはっきり言うタイプかな。


「あれ?そういえばエイドルさんは?」


 うつ伏せで顔を横にして目だけで周りを探した。


「エイドルはもう午前中のだいぶ早い時間に出て行ったよ」


「え?!全然気が付かなかった」


「明日は7時に来いって言ってたよ伝えたから寝坊しない様にね、僕はお腹減ったから食堂へ行くよお疲れ様、あとは筋トレちゃんとしておいてね」


「はい、ありがとうございました」


 ダッシュは倒れている僕の横に筋トレのメニューを置いて手を上げて爽やかに部屋から出て行った。


 しばらく誰もいない土の上で倒れていたが、気がつくと体が少し動く様になっていた。ありがとう不死さん。


 その後、なんとか筋トレを終わらせ、ふらふらと食堂へ行くと熊に見つかりガッツリ大盛りにされたけど何とか完食してシャワー浴び泥のように眠った。

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