第12話 傷とゴリラと包帯と

「もしかしてまた死んだのかな?」


 気がつくと知ってる天井だった。自分の部屋だ。


 起きようと思って腕を毛布からだそうとするとうまく動かせない、動きずらいと思ったら包帯でグルグル巻きにされていた。手も足も折れてたかだと思うが添え木と一緒に巻かれて右手以外は人形みたいな動きしか出来なかった。


「それにしても、これちょっと巻き過ぎだよね」


 何とか右手一本で包帯を外していくと体の傷は全部治っていた。っていうか包帯ないと全裸だ。久しぶりの。


「えー服が無いし、取りに行くのもシャワーの所の隣だしどうしよう」


 ドアから出ていこうか途方に暮れて立ち尽くしていると部屋の自動ドアが勝手に開いた。


「あ!ごめんなさい」


 一番悪いタイミングで看護師の人が入ってきた。


「ごめんなさい、まだ寝ていると思って包帯を変えに来ました」


 下を向きながら謝られた。


「いや!こちらこそすいませんこんな格好で!包帯を取ったら服が無かったもので」


「あ、そうですよね、すいません。今持ってきますね、傷に触りますからちゃんとベッドで寝て待っていてくださいね」


 そう言って服を取りに出て行ってくれた。とてもかわいらしい声の女の子だと思う。


 そう思うのだが、顔がゴリラなんでやはり獣人の男女の区別はつかない。


 なんとなく気まずく布団をかぶって待っていると、さっきの看護師(ゴリラ)が帰ってきた。


「お待たせしました、これ新しい服です」


 そう言って布団の横に置いてくれた。


「大丈夫ですか?一人で着替えられますか?お手伝いしましょうか?」


 優しい声を掛けてくれるゴリラ(看護師)。


「あ、ありがとうございます、でも大丈夫です自分で着れます」


 そう言ってごそごそ布団の中で着替えていると。


「でも本当にもう大丈夫ですか?ここに運ばれたときはすごい傷でしたよ?大丈夫か確認の為見せてもらえますか?」


「いや、もう大丈夫ですよ、もう何ともありません!」


 そう言って拒絶したがゴリラが布団を掴んでくる。


「だめですよ、皆さんの体調を管理するのも医療スタッフの仕事ですから」


 そう言いながら布団をめくってくる。別に服は着てるんだが何か無理やり捲られてるので恥ずかしくなってしまった。それに怪我が治ってる事もあまり聞かれたくないし。


「ほらほら傷に触りますよ、いい加減力を抜いてください」


 そう言ってすごい力で布団を毟り取られてしまった、ゴリラの腕力半端ない。


「 それじゃあ腕を貸してくださいね」


 そう言って手をつかんで袖を捲ってくる手の感触がごつい。


「え!すごいですね!傷跡が無い!どうなってるんですか?!」


「いや、意外と見た目ばっかりでそんなに深くなかったのかなぁって」


「いやいや、ガッツリ折れてましたよ?」


「あははは、いやー、結構早く治る体質みたいであははは」


 腕や足を触られながら無言の変な空気が流れたが看護師さんが口を開いた。


「でもまぁ何ともないならそれでいいです!」


 そう言って僕のおでこに手を当て熱を確認した後、何かにメモしてこちらを見て口を開いた。


「じゃあ13番さんはこれで治療はおしまいですね、また何かあれば医務室に来てくださいね、食堂の奥の扉が医務室です。もう権限がアップデートされて入れるようになってますからね」


 そう言って優しく笑いかけて出て行った。


「危ない危ない!なんかわからないけど優しくされてゴリラが可愛く見えてしまった」

 これが吊り橋効果か(違う)。


「権限が増えたいだけどお腹も減ったし、まずは食堂にでも行ってみようかな」


 部屋を出ると、どうやらあれから一晩経っているようで朝の十一時だった。食堂も中途半端な時間で食べている人もちらほらとしかいなかった。


「早速ピッとしてみよう!」


 券売機にブレスレットを当てるとピピッっと電子音が鳴って表示が変わった。


「おお、買える買えるよ!」


 まだ数字が読めないので何ポイント自分が持っているのかわからないけど押せるボタンが増えていた。


 とりあえず適当に目立った場所にあるボタンを押して食べてみることにした。


「お願いしまーす」


 札を置くとおばちゃんが固まる。


「あらあらまぁまぁ、あなた生きてたのね!よかったわー、昨日の試合ですごい傷だったから心配してたのよ。もう身体は大丈夫なの?手とか足折れてなかった?あなた小さいのにすごかったわ!お疲れ様!」


 おばちゃんの喋る勢いにたじろいでいると、ちょっとテンションが上がり過ぎている事に自分で気が付いたのか恥ずかしそうに食事を出してくれた。


「うふふごめんなさいね、応援してたから元気そうでうれしくてテンションがあがっちゃったわ。はい、これが定食ね。あとおまけ。内緒よ」


 口元に人差し指を当て、定食におまけにゆで卵をつけてくれた。どこの世界でもおばちゃんは最強なのかもしれないね。


 おばちゃん(熊)にお礼を言った後、僕は空いている席へ座り改めてお盆の上の料理を観察した。


 お盆の上に乗っているのは黄色いドロッとしたスープとパン、そして大皿に色々な野菜をグリルした物があり、その上にドンと鶏肉っぽいのを焼いたやつが乗っていて全体に刻んだ玉ねぎみたいなのが混じったソースが掛かっているた。熱々でとっても美味しそうだ。


「いただきます」


 まずはスープを口に入れてみると口の中にしっかりとした甘みが広がり、その後トウモロコシの風味が鼻から抜けてきた。これコーンスープだ!なんか地球で食べた味に似ていて懐かしくなり勢いよく飲み干してしまった。


 次は野菜のグリル、少し酸味が効いた塩味が濃いソースのおかげで野菜自然の甘みを感じ、さらに野菜の種類が多く色々な食感も楽しめた。


 そしてメインのお肉にフォークをさすと結構な抵抗があった。鶏肉に見えたのでもっと柔らかいかと思ったのに肉質自体はかなりしっかりしている。

 しかも繊維状にはなってるので鳥だと思うけど若鶏をもっと強くしたような噛みごたえがあり噛むと鶏肉なのにジューシーで美味しい。付け合わせのソースの酸味が合わさるというらでも食べられそうだ。このお肉をほぐしてパンに挟んで食べても美味しかった。おまけのゆで卵まであっという間に完食してしまった。ゆで卵の黄身の色が青かったのだけが気になったけど。


「ごちそうさまでした」


「それは何の儀式だ?」


 手を合わせたまま、ふと前を見るとサルの獣人のエイドルが座っていた。


「これは住んでたところでしていた食べ物に対するお礼みたいなもんです」


「ボインゴスみたいなもんか」


「いやちょっとボインゴスがわからないですけど」

 え、知らないの?みたいな顔をされたが、特に気にすることなくエイドルも前に座り定食を食べながら話しかけて来た。


「もう体は大丈夫なのか?」


「もう大丈夫ですよ、ご飯も美味しく食べられます」


 エイドルは僕の手や顔の服から出てる部分をじっと見た後口を開いた。


「昨日手足があんなにぐちゃぐちゃだったのに、どうなってんだお前の体は?ほんとに人間か?」


「なんでしょうね、僕もわからないけど特異体質?」


 少し呆れた顔をしていたがしばらくして考えるのをあきらめた様で話し始めた。


「一応上からお前の教育を任されたんだ」


「もとから任されてませんでした?」


「違う正式にだ、お前は昨日の試合で勝利した。この王国では強いものが正義だ。もちろん法律はあるが、ある程度強さが条件となってくる。そこでお前は自分の価値を示した」


「強さ?価値?僕結構食べられかけてましたよね?」


「ああ、もうちょっとで死んでたかもしれんな、でもお前は勝った。しかもギリギリの勝利だ。ここは闘技場で戦う場でもあるが見せる場でもある」


「見せる?」


「そうだ、どれだけ会場が熱狂したか、そしてどれだけの賭けが成立して運営がどれだけ儲かったかが大事だ」


「じゃあ僕が生き残る方に賭けてる人がほとんどいなかったという事ですか?」


「基本的に13番は何分持つかで賭けが成立している。それ以外の結果は親の総取りみたいなもんだ」


「じゃあ僕は運営を儲けさせたから世話してあげるよって事ですか?」


「理解が早くて助かるよ」


 食べ終わったエイドルがこちらを見て広角を上げている。


「ところでその世話というのは今までと違うんですか?」


「ああ、簡単にいうともっと戦える様にしろって事だ。今回の戦いで次に期待してる客が沢山産まれた。次の試合では賭けがもっと多くなるかも知れない、だからもっと戦える様にしてもっと長く使いたいんだろうな人間を」


「出来たらお断りしたいんですが」


「ダメだ、もう決定事項だ、俺にもボーナスが出る。次も勝てよ」


「ひえ、それが本音ですか」


「もう食ったんだろ、今からトレーニングルームへ行くぞ」


 そう言ってエイドルがトレーを持って立ち上がった。


「えーまだ骨が折れてるから無理ですよー」


「嘘をつくな、さっきエリザベスが完治したって言ってたぞ」


「エリザベスって誰ですか?」


「お前を治療してくれた看護師だ」


 あーエリザベス(ゴリラ)さーーん。


 エイドルはこちらも見ずにスタスタ歩いて行ってしまったので僕は急いで食器を片付けて後を追った。


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