第8話 晴れ時々、オーク

 ことの顛末として…

 ゴブリンエンペラーは、見事討伐された。

 

 精魂尽き果てて、討伐直後に気を失ってしまった俺…。

 次に目を覚ましたのは、冒険者ギルドの医務室だった。



 身体強化の負荷は、俺の想像以上に大きかったらしい。

 その後到着した救援部隊の馬車で、俺は街まで送り届けられたのだと聞いた。



 俺が目を覚ましたのは、ゴブリンを討伐した日から三日後。

 丸まる三日間眠り続けていたわけだ…。



 三日ぶりに目を覚ました俺を出迎えたのは、ギルマスとリディアの二人だった。

 三日間も寝てたからな…、相当心配をかけてしまったのだろう。



 特にリディアには――

「あれ程無理をしないようにって言ったのに!」

 と、こっぴどく叱られてしまった。



 散々怒られた後、ギルマスに今回の報告を行った。

 ギルマスとしても、ゴブリンエンペラーが出現したことは想定外だったらしい。

 


 「全滅もありえた!危ない橋を渡らせてしまった!」

 と終始申し訳なさそう謝罪をしていた。



 ゴブリンエンペラーといえば、お伽噺に登場する怪物の一つ。

 存在自体がここ数百年は確認されていないそうだ。

 言うなれば伝説上の存在に近いものだったんだとか。



 そんなものが街のすぐ側に集落を作っていた――

 それを想定しておけというのは酷な話だろう。



 今になって思い出しても、アイツの力は恐ろしものだった。

 一つ間違えば、その脅威が街の住人に牙をむいていた。

 そう思うと…。



 今回はなんとか犠牲者を出さずにすんだからよかったが…



 大けがを負ったダリルも、なんとか一命を取り留めたとのこと。

 今は街の治療院で、回復に専念しているようだ。



 死者がでなかったのは、不幸中の幸いと言えるだろう。

 ほんとうによかった…。



 二人からの説教&謝罪の後には、今回の討伐報酬の話もした。



 なんと…なんと今回の報酬は――

 白金貨 8枚!! 日本円で約800万円!!!!

 この一回の依頼達成で、小金持ちになってしまった…。



「こんなに貰っちゃって、いいんですか??」


「なんだ伝説級の魔物を倒した報酬だってのに、いらねえのか??お前がどうしてもっていうなら、その金は俺の酒代に…」


「ダメです、私が貰います」



 今回のこの高額報酬、どうやら冒険者ギルドから出た報酬だけじゃないらしい。

 なんとヒタボが属しているこの国、トリス王国からも報酬がでているのだとか。



「ゴブリンエンペラーなんてのは、本来であれば国の軍隊が出張って相手するような奴だ。それをいち冒険者が討伐してくれたってんだから、この報酬にも頷けるってもんだ」

 と、ギルマスは言っていた。



 国の軍隊を動かせば、それにかかる金額は白金貨8枚では、到底収まらないだろう。

 それを思えば、妥当な額だ…といえるのかな?

 


 ちなみに今回の討伐に参加した他メンバーの報酬は、一人あたり白金貨1枚ずつ。

 エンペラーを直接倒したとはいえ、俺だけこんなに貰ってもいいのだろうか…。



 貰いすぎといえばもう一つ。

 今回の依頼を達成したことで、俺の冒険者ランクがCランクまで上がっていた。



 つい数日前まではFランクだったのに、目を覚ましたらCランク。

 ケビン達『鉄の拳』のメンバーと同じランクじゃないか…。



 ギルマスからは――

「ゴブリンエンペラーを倒せる奴を、Fランクのままにしとく方が問題だろうがよ!」

 と、言われてしまった…。



 まあランクが上がるのは、俺にとってプラスしかないわけだし、ここは素直に喜んでおこう。



 こんな感じで、ゴブリンエンペラーというイレギュラーに見舞われた俺の初依頼は、なんとか無事に幕を閉じたのだった。



      ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 


 ゴブリン討伐があった日から、早数ヶ月が経った。



 俺はといえば、己の鍛錬のため、そして生活費を稼ぐために粛々と冒険者生活を送っている。

 自分で言うのもなんだが、だいぶ冒険者生活にも慣れたと思う。



 また、ここ数ヶ月の依頼をこなしていく中でレベルとステータスも上昇している。

 現在のステータスはこんな感じだ。



【名前】

フーラァ(今泉 風太) Lv.32


【スキル】

早熟(Lv.10)、芸達者(Lv.10)、武芸者(Lv.10)、鑑定(Lv.10)

空間収納(Lv.10)、気配察知(Lv.8)、気配隠蔽(Lv.9)

風魔法 (Lv.5)、火魔法(Lv.5)、身体剛化(Lv.7)


【基礎ステータス】

・体 力 15000

・魔 力 13500

・攻撃力 14500

・耐久力 10500

・俊敏性 12000

・幸 運 100



 ゴブリンエンペラー戦で使用した高出力の身体強化。

 あれはその後【身体剛化】に進化していた。



 あれから何度も使用して体に慣らしてきた。

 今では、初めて使った時ほど体への負荷はなくなっている。




 こちらの世界に転生してからというもの、こうやってステータスとして自分の成長を感じることができる。

 鍛錬のモチベーションを高くキープしていけるのはいいことだ。



 そして今日も俺は、依頼を受けるために冒険者ギルドを訪れている。



「おはようございます、フーラァさん!」 


「おはよう、リディア。」


「フーラァさんは今日も可愛いですね~」


「リディア、それ毎日言ってるじゃない…。恥ずかしいしそろそろ止めない?」


「ふふふ、だってフーラァさんが可愛いのは本当ですから。その可愛いって言われて毎回照れてるところも含めて!」



 リディアとは、こんな感じで気さくに話せるくらいの中になっていた。


 俺のことも呼び捨てでいいと伝えたんだが――

「私のこの口調は、口癖のようなものですから」

 とリディアには言われてしまった。


 まあ本人がその方が呼びやすいならそれでいいが。



「今日も討伐系の依頼をお探しですか??」


「うん、そのつもりだよ」


「あ、でしたらこちらはいかがです?」



 リディアが一枚の依頼書を差し出して依頼って


「オークの群れの討伐…?」


「はい。東の隣国、エスタ王国へと続く街道に、最近オークの群れが出没するらしくて…」


 エスタ王国に続くこの街道は、普段であれば魔物の出現も少なく、トリス王国とエスタ王国を行き来する商人らに重宝されている街道だという。



 その街道に魔物が出没するとなると、友好国であるエスタ王国との貿易にも今後支障が出かねないんだとか。



「というわけで、トリス王国とエスタ王国の両国から、優先して対応して欲しいと冒険者ギルドに依頼が来てまして…」


「なるほどね。わかった、私がこの依頼を受けるよ」


「ホントですか!ありがとうございます!!オーク討伐の依頼ってあんまり人気がなくて困ってたんです」


「オーク討伐ってまだ行ったことないんだけど、なんで人気がないの?」


「ああ…、オークって凄く攻撃が通りにくいんです。豚人なんて言われているくらい、体中の脂肪が分厚くて、物理攻撃も魔法も効きづらいんです。」



 なるほどな。倒すのに時間や労力が多くかかるオーク討伐。

 その割に、報酬はけして高いわけではないらしい。

 そりゃあ、冒険者から敬遠されるだろうな。



「まあ、私なら問題なく倒せると思うから大丈夫だよ。そういう手合いとの戦い方は心得てるから」


「ありがとうございます!フーラァさん!!!依頼が終わったら、近所にある料理屋の豚料理をご馳走しますね!!」


「オーク討伐してすぐに豚料理はちょっと…」


「ふふっ、冗談です。」



 こうして今回の依頼はオーク討伐に決定するのだった。



 防御力の高い相手との戦闘…。

 また色々と試して、いい修行になりそうじゃないか!


 

      ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 依頼を受けた後、準備を整えた俺は、隣国エスタに続く森の中に開かれた街道を歩いていた。



 街道をだいぶ歩いてきたが、今のところ戦闘は一度も起きていない。

 街道は平和そのもの、といった感じだ――



 なんてことを考えていた矢先のことだった。



 ボンッという小規模な爆発音が、街道と周辺の森に響く。

 音のしたほうに視線を向けると、森の中からは黒煙が上がっていた。



 爆発音やあの黒煙の感じからして、キャンプのために火を使いました…、なんてことはないだろう。

 十中八九、あの黒煙の真下で戦闘が起こっているはずだ。



 俺から黒煙までは、徒歩で10分もかからない距離だ。



 この街道には、オーク以外の魔物はほとんど現れないって話だし、あの戦闘にオークが関わっている可能性は高いだろう。



 そう考えた俺は、【身体剛化】を発動し、現場に向かう足を速めるのであった。





 俺が黒煙の上がる現場に到着したとき、そこはすでにオークによって蹂躙されていた。



 辺りには馬車の残骸が散乱している。

 だというのに、オークたち以外の気配を全く感じない。

 く…、少し遅かったか…。


 馬車の残骸の周りには、大量の血だまりが何カ所もできている。

 その割には人間の死体が全く見当たらない。

 ということは、こいつら……襲った人間を喰ったのか!?



「ブキャッー!!!!」



 俺の存在に気がついたオークの1匹が、ひと鳴きして仲間たちを呼び寄せた。


 

 【気配察知】!!!!

 俺は【気配察知】を発動し、オークたちの総数を把握する。



 オークたちの数は……、全部で8匹!!

 その内5匹が、こちらを向き臨戦態勢をとっている。



 残り3匹は、少し離れたところで誰かを追っているようだ。

 もしかしたら、襲われた集団の生き残りかもしれない。

 急がなくては……!



 俺はすかさず、オークたちへと【鑑定】を発動させた。



【種族】

フォレストオーク Lv.17


【スキル】

脂肪硬化(Lv.8)、貪食(Lv.10)、タフネスブースト(Lv.8)、

衝撃吸収(Lv.10)



【基礎ステータス】

・体 力 6000

・魔 力 300

・攻撃力 3000

・耐久力 9000

・俊敏性 1000

・幸 運 30

 


 冒険者ギルドで聞いていた通り、防御に特化した種族みたいだな。

 この間のゴブリンエリート達と比べると、数が少ない代わりに一体ごとのステータスはこちらが高い。




「プギィッーーー!!!」

 一番近くにいた1匹が、手にした棍棒をこちらへ振りかざしてくる。



 俺はその棍棒を右ストレートで砕き、そのオークに肉薄した。

 まずは一撃っ!!!



「はっ!!!」

 棍棒を砕いた時と同様に、強力な右ストレートをオークの腹に叩き込む。



 バィンバィン…

「なっ!?」

 俺の右ストレートを受けたオークの腹が、奇妙な音を立てながら攻撃の威力を相殺しやがった!!



「ブヒィッン!!」 


「くっ!」

 オークの反撃が迫るが、それをバックステップで躱す。



 リディアが言っていた、オークには攻撃が通りづらいっていうのはこういう事か!!

 強打を当てたところで、こいつらオークの分厚い脂肪の層が、攻撃の勢いを吸収してしまう!



 まるで、前世にあった低反発レタンを殴っているような感覚だった。

 これでは攻撃が通らないわけだ…。



「ブヒィッブヒィッ」

 俺の攻撃が自分たちには効かないと確信したのか、オーク共は厭らしい笑いのような鳴き声をあげ始めた。



 そういえばリディアがもう一つ言ってたな。

 オークという種族は性欲が強く、他種族のメスは犯したのち喰うのだとか。

 あの気持ちの悪い笑いも、そういうことだろう。



 俺をただの非力なメスと判断したってことか…。

「上等…!その肉の鎧を打ち砕いてやる!!」



 呼吸を整え、構えなおす。

 両手には魔力を集めていき、臨界を迎えると同時に…。

 地面を踏み抜き、再びオークへと肉薄する!



破弾発勁はだんはっけい!!!!!!!」

 俺は超至近距離から、短いモーションで掌打をオークの腹に打ち付けた!



「ブギィ??」

 掌打をくらっても、ダメージを感じない様子のオーク。

 だがそれから数瞬とせず…



「ブッブッ…ブギャァーーーーーッ」

 オークの巨体は、膨らんだ風船が割れるかのように破裂した。



「ブギィ!?!?!?!?!」

 残りのオークたちにも動揺が走る。



 今の攻撃は、八極拳における攻撃の打ち方で『発勁』、それを俺なりにアレンジしたものだ。


 『発勁』は『寸勁』などとも呼ばれ、近い距離から短いモーションによって相手にダメージを与える打ち方である。


 通常の攻撃の多くが、敵の体外にダメージを与えるの対して、この『発勁』は相手の体の内側にダメージを浸透させるように衝撃が伝わる。



 今回はそれに加えて、掌打に圧縮した魔力を乗せている。

 『発勁』によって体内に浸透した魔力は、内部で拡散され…。

 そして内側から体を破壊したというわけだ。



「いくら外側が硬くても、中までそうとは限らないよね?」


「ブ、ブギィ!?」



 オークたちが混乱している内に、次の個体に【破弾発勁】をくらわせていく。

 掌打を受けたオークは、1匹目と同様に、次から次へと破裂していった。



 

「ブ、ブギィ!!!!!」



 4匹倒したところで、残り1匹目が逃走を図る。

「逃がさない!!」



 俺は後ろから追いつき、オークの頭上から『発勁』と同じ要領で、踵落としを脳天に叩き込んだ。

「ブッブッ…ブギャ!」



 最後の1匹は頭のみを爆散させ、息絶えた。



 ふぅ…、あとは残りの3匹。

 それと追われてる生き残りを助けないと!

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