【詩】古い書棚から

紀瀬川 沙

古い詩

花の雨

栄えおとめが

すすり泣き


闊達に

天が下になむ

山わらう


藤浪の

止水を揺する

なごりあり

水鏡には

見ずのたおやめ


やかましき

祭囃子に

夕惑い


たまゆらに

虚を実と作(な)す

水の月


淫佚に

寝物語する

昼下がり


蛍火や

打ち出づる人の

弓張りか


稚児じゃれて

知らず言祝(ことほ)ぐ

平和の世


初夏からり

生絹(すずし)に満つる

時つ風


白辛夷(しらこぶし)

籬から見えぬ

深窓に


振袖の

なみだ一掬

あまい雨


かなたなる

山の霞は

棚曳いて

こなたの硝煙

春の昼に消ゆ


夕冷えに

かくしゃくとした

きりぎりす


閑けさに

鳥の子紙が

摩れる音


寂寞を

遣らずの雨が

うるおせり

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