見えない鎖

安藤唯

第一話

 お昼ご飯を食べ終え時計を見ると、針は既に12時半を指していた。

 あと2時間もしないうちに、その時がやってくるのだと思うと憂鬱になり、私は、この時間帯唯一やっているバラエティーにTVのチャンネルを合わせ気を紛らわす。


 一日のうち、私を最も鬱々とした気持ちにさせるもの。幼稚園のお迎え。


 と言っても、別に私は、娘を迎えに行くのが嫌なわけではない。

 家事が一通り終わった後の一人時間は確かに手放し難いが、迎えに来た私の姿を見て、ママ!と嬉しそうに駆け寄ってくる我が子を見れば心が温かくなり、ほんの僅かの間とはいえ、離れていた分余計に愛しくてたまらなくなる。


 そうではなく、子どもが教室から出てくるのを待つ間、他のお母さん達と園庭で待っていなくてはならないのが、私にはたまらなく苦痛なのだ。

 

 他のお母さん達は、当たり前のように互いに朗らかに挨拶し、声を掛け合い、世間話に花を咲かせることができるのに、私にはそれができない。


 挨拶はしたけど、他に何か話しかけた方がいいのだろうか?でも一体なんの話をすれば? 

 あれ?妹さんの名前、前に聞いたのに忘れてしまった!失礼に思われるかもしれないからもう聞けない!など


 とにかく色々な事を考えすぎて、上手く会話を続けていくことができないのだ。

 私がこんなだから、可哀想に、いつの間にか娘はクラスで浮いてしまい、皆お友達同士、お母さん同士仲良くなって、幼稚園の後近くの公園に行って遊んでいるというのに、私と娘はまっすぐ家コース。


 今日娘はOOちゃんと遊んだと言っていた、OOちゃんのお母さんに話しかけて仲良くならなくては!

私も娘のために積極的にいかなくては!

娘のためにも頑張らなくては!


 そう思えば思うほど空回りして、苦しくなって、結局、年長になると同時ににママ友作りを諦めた私は、あまり幼稚園の子達が来ない森の公園広場で、娘と二人、縄跳びをして帰るようになった。


ごめんね、お母さん人付き合いが下手で

あなたは私みないにならないでね。

ああだめか、私の娘だもの。

でも、あなたには友達と楽しくコミュニケーションとれる子になって欲しいの。

小学校へ行ったら私なんて関係なく、あなたと、そこで出会う友達との世界を作って欲しい。


 不甲斐ない罪悪感に駆られ、小学校に未来の夢を託しながら、長く辛い幼稚園の送り迎え生活はようやく終わった。

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