2.そして追放へ

 俺は、所属する勇者候補パーティーが正式な勇者パーティーと認定された歓喜の直後、突然クビを言い渡された。


 それなりの人間関係を築けていたと思っていたのは俺の誤解だったようで、勇者ジャスティスのみならず他のパーティーメンバーからも、冷たい言葉を浴びた。


 俺もそんな奴らには見切りをつけて、潔く去ろうと思ったのだが、俺を犯罪人扱いして、流刑地とも言える北の魔物の領域『北端魔境』に送ると一方的に宣言されてしまった。


 まったくふざけた話だ。


 だがそれは……勇者ジャスティスが勝手にほざいていることではなかったらしい。


 俺たちが話をしている部屋に、瞬く間に兵士たちがなだれ込んで来た。


 そして一斉に、俺に槍を向け包囲した。


 なんてことだ……もう筋書きが出来上がっていたと言うことか。


「さっさと連れて行け!」


「かしこまりました。勇者様」


 抵抗することも考えたが、これだけ包囲されたら抵抗するだけ無駄だろう。


 『勇者選定機構』の長官か……できれば宰相か国王に話を聞きたい。

 ここは、おとなしくついていくことにする。


 ……少し行くと、王宮のはずれにある大きな扉の建物の中に通された。


 ここってもしかして……転移門がある場所か……?


 ……まさか、尋問もしないで直接『北端魔境』に送るのか?


「ヤマトくん、残念だよ。こんな結果になって。まぁ君の足手まとい振りからすれば、やむを得ないだろう。死刑にならなかっただけ儲けもんと思ってくれ……」


 ニヤけ顔でそう言ったのは、『勇者選定機構』の長官だった。


「長官、どういうことですか? 話を聞いてください」


「悪いが……話すことなどないのだ。もう全て決定事項なのだよ。君は、これから『北端魔境』に送られる。そこから出ることは二度とできないが、冒険者という扱いで自由にしてやるよ。奴隷に落とさないだけ、感謝してもらいたい。せめてもの情けだ。あー、礼はいらん。そのかわり多くの魔物を倒し、『魔芯核』を取って国に貢献してくれ」


「長官、なにを!? これは国王陛下や宰相閣下もご存知のことなのですか?」


「当然じゃないか。ワッハッハ」


 なんと……国ぐるみで俺を追放すると言うのか……?

 おそらく勇者ジャスティスの進言に基づいてるんだろうけど。

 今までの戦いを見てきたはずの『勇者選定機構』の長官も、この国を動かしている宰相も国王も、皆了承済みだと言うのか……?


「なぜ、なぜこんなことを!? 私が何をしたと言うのですか!?」


「哀れなものだな。まぁ良い、一つだけ教えてやろう。ヤマト君、君は大した力もないのに、常人ではありえない加護を持っている」


「……加護?」


「そうだ。加護がなければ“ただの役立たず”で終わっていたが、加護を持っているせいで、“不釣り合いな役立たず”として、より目立ってしまう。そして“邪魔な存在”となってしまったのだよ」


「どういう意味ですか?」


「『献身による加護』は、『固有スキル』の『献身』と関連しているだろうから、まだ良しとしよう。だがもう一つの加護は、君にはそぐわないものだ……

 ……『日曜にちよう神テラスの加護』は、不釣り合いすぎる加護と言えるだろう。

 十神教の主神とも言える『一の日の神』で『光魔法の守護神』……そんなテラス様の加護をいただく人間など、我が国の記録上存在しないのだよ。

 ……まぁ、だからこそ勇者パーティーにも入れたが、全くの期待はずれだった。

 そんな君が……万が一にも『聖者』などと崇められるようなことになっては、百害あって一理なしだ。

 我が『カントール王国』にとっても、『十神教』にとってもな。

 それから……勇者ジャスティスも嫉妬の感情はあるようだなぁ。

 君の能力には全く嫉妬していないが、加護には嫉妬しているようだったぞ。目障りらしい、ワッハッハ」


「……そんな……。加護があるからって……」


 俺は、長官が語った予想だにしない内容に、言葉が続かなかった。


 勇者ジャスティスは……俺が普通の人にはない加護を持っていることに嫉妬していたと言うのか……?

 それが、目障りで気に食わなかったと……。

 勇者ともあろう者が、なんてちっぽけで幼稚な発想なのか……。


 そして国や教会までもが……加護を問題視したというのか……?

 俺が『聖者』と呼ばれるようになる可能性なんて、1%もないだろうに……。

 そんな僅かな将来の災いの種を排除するというのか……?

 仮に俺が『聖者』と言われたからって、国や教会に何の不利益があると言うんだ……?


 ……全く理解できない。


「これ以上の問答は無用だ! さっさとゲートに放り込め!」


「な、何を、ぐっ、は、離せ!」


 俺は兵士たちに押さえ込まれ、あっという間に、転移門の中に放り込まれた。


 ………………。


 一瞬、宙に浮くような感覚にとらわれ、次の瞬間には、目の前に全く違う景色が広がっていた。


 石造りの広間だが、罪人が送られるのにふさわしい陰湿な雰囲気の部屋だ。

 兵士が六人待ち構えていた。

 その後ろから歩み寄ってくるのは……貴族風の丸々とした男だ。


「お前がヤマトか? 勇者候補パーティーにいたというのに……哀れなものだな。正式な勇者パーティーに認定された途端にクビになり、こんなところに罪人扱いで追放されるとはな。お前は、勇者パーティーからだけでなく、国からも追放されたんだよ。ここは、『カントール王国』であって『カントール王国』ではない。最果ての街ではあるが、お前がこれから活動するのは、国境線の外……魔物の領域だ。一日に二つの『魔芯核』がノルマだからな」


 腕組みしながら蔑む目で俺に語りかけているのは、兵士たちの様子から察するにこの街の守護だろう。


 『魔芯核』というのは、魔物の心臓の近くにあるもので、魔法薬や魔法道具の材料になったり、燃料になったりするものだ。

 それを二つ持って来いという事は、最低でも一日二体は魔物を倒せと言うことなのだ。


 仮にレベルの低い魔物が多くいてくれたとしても、毎日二体以上を一人で倒すのは……普通なら骨が折れる。

 普通のレベルの冒険者というか、罪人にそんなノルマをかされたら……ほぼ死ねと言われているようなものだ。


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