【コミックス第一巻12月5日発売!】光の大聖者と魔導帝国建国記〜『勇者選抜レース』勝利後の追放、そこから始まる伝説の国づくり〜

今大光明

第一章

1.突然のクビ宣告

「ヤマト、お前はクビだ! 出て行け!」


 俺は、所属する勇者パーティーのリーダージャスティスから、突然クビを宣告された。


 それも特別な……記念すべき日にだ。


 俺たちは、勇者候補パーティー三組による『勇者選抜レース』を勝ち抜き、『カントール王国』の正式な勇者パーティーと認定された。


 今日まさに正式決定したのだ。


 目標を達成し、正式な勇者と認定されたのに……


「なんで突然クビなんだ? こうやって正式な勇者パーティーになったって言うのに……」


「ふん、……だからだよ! 正式に勇者に選抜されたから、もうお前は必要ないんだよ! 今までクビにするのを我慢してやっていたんだ。お前がどれだけの貢献をしたって言うんだ? ただの足手まといだったのは、自分でもわかってるだろ!?」


「足手まといって……」


「戦いではいつも最後尾、やることといえば回復薬での支援程度、いつも真っ先に動けなくなって、お荷物だったんだよ! お前がいなかったら、もっと楽に選抜を突破できていたんだよ!バカめ!」


 ジャスティスは、蔑む目つきを俺に向ける。


 確かに俺は、戦いの時に回復程度の行動しかしていないし、真っ先に動けなくなっていた。


 だが、それには理由がある。

 俺の『固有スキル』の『献身』が発動していたからだ。


 これは、俺が指定した者が受けたダメージを、半分肩代わりするという特殊なスキルなのだ。


 俺はスキルの力で、パーティーメンバー全員の受けたダメージを半分引き受けていた。

 だからメンバーがダメージを受ける度に、その半分を俺が肩代わりしていて、当然のことながら真っ先に動けなくなるのだ。

 それゆえ、足手まといにならないようにいつも最後尾で、受けたダメージを魔法薬を飲んで回復しながら、他のメンバーにも魔法薬をかけてフォローしていたのだ。


 このスキルのおかげで本来食うダメージの半分で済んでいることは、メンバーもみんなわかっていたはずだ。

 何よりも、俺が勇者候補パーティーのメンバーになったのは、このスキルがあったからだし。


 俺はそんなことを思いながら、周りにいるメンバーに視線を送る。


「確かに戦闘じゃぁ……ほとんど役に立ってなかったわよね。まぁダメージを減らしてくれたのは、助かったけどさぁ……」


 魔法担当のマルリッテが、おどけながら言った。


「盾役としては、ダメージが減って助かったようにも思えるが……実際のところ、それがなくても戦えていたからなあ……」


 今度は、タンクポジションのガードルが、ニヤけながら言った。


 なぜ二人とも……手のひらを返したように、馬鹿にした態度をとるんだ……?


「そうね……このパーティーには、あなたは不釣り合いだわ。『勇者選抜レース』も終わったことだし、袂を分かつにはちょうどいいタイミングですわ」


 ユーリシアまで……。


 俺が一番驚いたのは……巷では『聖女』とすら言われている回復担当のユーリシアまでが、俺にそんな言葉を投げかけたことだ。

 まさか彼女にまで、冷たい言葉を浴びるとは……。

 貴重な回復魔法の使い手だが、偉ぶることもなく、優しくていい子だと思っていたのに……。


「お前のフォローは、正直大変だったからなあ。これからのことを考えると、いつまでもお前のフォローなんかできねーよ。命があるうちに、やめたほうがいいぜ」


 ロングアタッカーで弓使いのボールドウィンが、いつも通りの冷めた口調だ。


 なんだこれ……?

 既に、メンバー全員が、俺を見限っているのか……?


 役割分担で戦っていたと思っていたのは、俺だけなのか……?


 勇者ジャスティスの性格がきついのは知っていたし、弓使いのボールドウィンが皮肉屋なのも知っていた。

 でも、ここまで見限られていたとは思わなかった。

 他のみんなとも、仲がいいと言うほどではないが、普通の人間関係は築けていたと思っていた。


 ……俺の勘違いだったようだ。


 ……だが別に大きなショックではない。

 確かにめちゃくちゃなことを言われて、イラッとしているし、悔しい部分もある。


 でもすがりついてまで、このパーティーにいたいとは思わない。


 そもそも俺は、このパーティーに入りたくて入ったわけではないのだ。


 『勇者選定機構』のスカウターの目に止まり、王命に従って半ば強制的にパーティーに組み込まれたのだ。


 王命に従わないわけにはいかなかったし、片田舎で両親をなくし一人で暮らしていた俺が、王都に来れる機会なんて他にはなかった。


 ただそれだけのことだ。


 クビだと言うのならいいだろう。

 潔く去ろう。

 自由気ままな冒険者にでもなればいい。


「分かった。俺が必要ないというなら、別に構わないよ。明日にでも出て行くよ」


 ん……俺の言葉を聞いたジャスティスが、悪い笑みを浮かべている。


「ハッハハ、お前はバカなのか!? 普通に、はい、さよならって消えられるとでも思ってんのか!? お前はこれから、罪人が送られる北の魔物の領域『北端魔境』に送られるんだよ!」


「え、どういうこと!? 俺は罪人じゃないだろ?」


「馬鹿言ってんじゃねーよ! お前は罪人なんだよ! 今まで散々足を引っ張りやがって。何もわかってねぇなぁ。ペナルティーなしで、去れるわけねーだろ! 魔物の領域に行って、魔物を狩って、せいぜい国に貢献するんだなぁ。まぁ生きていられればの話だがなぁ! ハッハハ」


 なにそれ……?

 なんなんだ、このめちゃくちゃな言いようは……。


「俺を殺す気なのか……? 追い出すだけじゃなくて、命まで奪う気なのか?」


「馬鹿なこと言ってんじゃねーよ。殺すんなら初めから殺してるっつうの! 生きるチャンスを与えてやってるだけ、ありがたく思うんだな。せめてもの情けだ。まぁ……本音を言えば……勇者パーティーのメンバーだった者を罪人として、処刑するのは俺たちの名誉に傷がつくからな。だから感謝は要らねーよ」


 ……なんだこいつ、イカレてる。

 こんな奴が、正式な勇者として認定されたなんて……。


 そして他のメンバーも一緒に笑ってる。

 こんな奴らと……俺は今まで一緒にやってたのか……。


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