ハズレスキル【保存】しか使えない俺が始めた道具屋だが、Aランクパーティから追放された威力絶大/詠唱時間三日なピーキー魔女と組んだら大繁盛 ~禁忌魔術を誰でもどこでも使える魔封具で君もSランクになれる~
虎戸リア
第1話:追放されたのは隣の魔女でした
ルーシア大陸中央部〝冒険者の街〟ガドラン――商人通り
〝怒るゴブリン亭〟にて。
「はあ……今月も赤字か……このままだと店が潰れる」
俺はいつもの酒場で、エールを飲みながら今日の売上を思い出し、ため息をついた。エールの水面には、冴えない黒髪の三十代の男が映っている。
「そんな辛気くさい顔をしてたら売れる物も売れないわよ。ただですら、冒険者向けの【保存食】なんて地味な物を売っているのだから」
そんな俺の向かいに座って呆れたような声を出したのは、長い青髪を後頭部で編み込んでいる、少しきつめの顔をした美女――レフィだ。
冒険者と一目で分かる革鎧に、椅子に立て掛けてある使い込まれた槍。彼女は俺の幼馴染みであり、俺がかつて所属していたCランク冒険者パーティ【旋風の槍】のリーダーだ。
「そうなんだけどよー」
そう。俺もかつては冒険者だった。
だが、物体を違う形にして状態を〝保存〟し、任意のタイミングで〝解放〟し元の形に戻すことができるユニークスキル――【保存】しか授からなかった俺は、致命的に冒険者に向いていなかった。
そして俺はパーティの足手纏いであることに耐えられず……パーティを抜けた。レフィは最初、それを止めたが、俺は首を振った。
そうして俺は苦肉の策として、スキルを活かせる仕事として、食糧や水を保存して携帯性を大きくあげた、〝保存食〟を扱う小さな店を開いたのだった。
「うーん……でも潰れられたら困るわ。保存食ないと、みんなやる気なくすし」
「じゃあもっと買ってくれ……買いに来てくれるのはお前らと昔馴染みばっかりだよ」
「結構、私も宣伝しているんだけどねえ……みんな食糧を軽視している節があるから」
「だよなあ……飯は大事なのに」
「それに高位ランクの冒険者ほどダンジョンに長いこと滞在したがらないから、必要性を感じないのかもね。逆に低ランクの冒険者はどうしても長期間の探索を余儀なくされるけど……食糧にお金を回す余裕はない」
「はあ……もうそろそろ冒険者時代の備蓄もなくなってきたし……いよいよ店を畳むしか……」
なんて俺が嘆いていると――
「お願いします……考え直してください! あたし、他に行くとこなくて!」
そんな切実な声が耳に飛び込んできた。
見れば隣のテーブルに、冒険者らしき集団が座っていた。さっきの声は、黒いローブにとんがり帽子を被った、肩辺りで内側にカールしている綺麗な黒髪の美女が発したものだった。
「……あれ、今話題のAランクパーティ【紅蓮の竜牙】よ」
レフィがそう囁くも、俺はその黒髪の美女に釘付けになっていた。
彼女は前開きで襟ぐりの深い服を着ており、コルセットのように腰を絞っている上に、胸元が開いているせいで、その豊満な胸が嫌でも目についた。現に、周囲の冒険者達もその胸元に視線を吸い寄せられている。
そんな巨乳魔女は、しかし必死そうな声で懇願を続けた。
「お金もないですし……魔術しか能がないんです! お願いします! 追放だけは……」
そんな彼女に対して、パーティリーダーらしき青年が口を開いた。
「ってもなあ……グレア、お前のスキルは使いにくすぎる。否、全く使えない。魔術協会からのお墨付きだったから入れてやったのに……
「そ、その代わりに威力とか範囲とか凄いですよ! それに禁忌魔術とかもほら!」
「三日掛かっても一度放てばおしまいだ。お前をその一回の為に連れていけって? 冗談はよしてくれ」
「ですが……」
「まあ……お前がどうしてもと言うなら、その無駄にでかい乳を触らせろ……それなら話は別だ」
リーダーや他のメンバーが下卑た笑みを浮かべている。
「っ!」
リーダーが、そのグレアと呼ばれた魔女の胸へと手を伸ばした。
「い、いや!」
しかし、グレアはそれをはね除ける。
「……足手纏いでその上、身持ちも堅いとか、お前価値ないよ。せめて俺らの女になれば……使い道もあるのに」
「で、でも……そんな……あたし……」
ふう。
いい加減、苛ついてきた。俺は今きたばかりの、この店の名物で未だに沸騰している〝溶岩シチュー〟に手を
「お前みたいな、愚図でドジで、何も出来ない無能乳でか女なんてな! 娼婦ぐらいしか使い道がねえんだよ!! 良いからさっさと股を開けよ!!」
「ぎゃはは! 流石リーダー! ここでヤルんですかい!?」
騒ぐ彼等だが、Aランクパーティだけあって、周囲の冒険者も見て見ぬ振りだ。リーダーが無理矢理、グレアの腕を掴んだ。
「……シールス。相手は〝竜殺しのザドス〟だよ」
「だから?」
俺はシチューに【保存】のスキルを使う。すると、シチューが小さな立方体へと変化する。それを掴むと俺は立ち上がった。
「……後ろは任せなさい。私もいい加減ぶち切れそうだから」
「おう」
俺がそのリーダーの青年……ザドスとやらの背後へと回る。
「いや……いやあ! やめて! やめて!」
グレアが必死に抵抗するが、魔術師の細腕では、接近職らしきザドスは振りほどけない。
「ん? 誰だてめえ」
ようやく俺の存在に気付いたようだが、もう遅い。
「ほい、アチアチのシチュー、お待ちどう――【
俺の手から離れた立方体が、元のシチューへと戻っていく。
当然、熱々のままだ。それがザドスの頭へと降り注ぐ。
「っ! ぎゃああああ!! あっちいいいい!!」
「ざ、ザドスさん!?」
ザドスがのたうち回っている間に、俺はグレアの手を掴んで酒場の入口の方へと押し出した。
「逃げろ!!」
「は、はい!」
グレアがそう言って、走っていくも――
「きゃっ!」
入口付近の何もない場所で、派手に転んだ。
「ああもう、何やってんのあの子!」
レフィがそう言って、飛び出した。テーブルからテーブルへと跳んでいき、入口へと向かっていく。
「てめえええええ!! ぶっ殺す!!」
「馬鹿野郎、それよりすぐに回復術士を呼んでこい!」
後ろで数人の冒険者が俺を追ってくる。
「ちょいと借りるぜ」
俺は近くのテーブルにあった、胡椒入れの蓋を開けると、中の胡椒の粉末にスキルを使用する。今度は手のひら大サイズの球体状にしたそれを、向かってくる冒険者へと投げつけた。
「――【解放】」
冒険者達の目の前で胡椒が元に戻り、ぶち撒かれた。
「ぎゃああ! 目があああ!!」
「ハックション! くそ! 鼻が! ハックション!」
食材を無駄にしたことに胸が痛むが仕方ない。あとで、弁償しにこよう。
見れば、レフィの手を借りてグレアが、よたよたと店の外へと出ていく途中だった。俺は追い付くと、二人を連れて夜の雑踏へと紛れる。こうなればしばらくは見付からないだろう。
こうして俺は、規格外の魔女グレアと出会ってしまったのだった。
まさかそのおかげで俺の店が大繁盛することになるとは――この時の俺は知る由もない。
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