学園の美少女たちに聞きたいんだけど、なんか俺にだけ当たり強くない?
みつる
第1話 男が欲しいのはデレだ
「……ごめんなさい、付き合うとかはちょっと」
人間とはふざけた生き物である。
人の好意をこんなにも無下に扱うことのできる思いやりに欠けた畜生以下の存在で、そのうえ残酷で薄情な生命体だと、幾度となく経験した失恋の光景を思い出しながら夏目アオイはそっと涙を拭いそうになったが。
なんとかそれを堪えて、
「はい、わかった。わかったから最後に一ついい? 俺の……どの辺がダメなの?」
薄々分かってはいた。
初めから目の前の少女が自分に気がないことも、アタックしてどうにかなる問題でもなかったことくらい、既に20と失敗している暗黒の経験が警報を鳴らしていたのだ。
けれど、それでも彼女が欲しい。
そう覚悟を決め、校舎裏に呼び出して告白した結果がこれだ。
何の躊躇もなくバッサリと切り捨てられて瀕死のメンタルクラッシュを受けて崩れ落ちながらも、次に生かそうとするその姿はもはや玄人と言っていい。非リアの。
「まず拒絶された相手にそれを聞くところ」
「グハッ!」
「話がつまらない。人間性がゴミ。頭も悪い。どうしてこんなのに自信がついちゃったのか親の顔が見てみたいレベルでの自尊心の高さ。はっきり言って不釣り合い、鏡見てきたら?」
「ぎゃあああああああ」
「後は単純に顔。喧嘩するのが男らしいとか思ってるとしたら間違いキモい。その傷ついた気持ち悪い顔で女子に付き纏うの辞めてもらえる? それじゃ」
メンタルクラッシュからのすり潰しが行われた結果、アオイのライフは地に落ちた。
完全に燃え尽きたように灰になり、地面を横たわったまま起きあがろうとしない彼は小さく「そこまで言わなくていいじゃん」などと供述しているが、全て事実なので擁護することはできない。
校舎裏の日陰で転がり、なんとなくは分かっていたと深いため息を吐き捨てて帰宅するために起き上がった。
「高校デビュー間違えたなぁ」
基本的に高校生は繁殖の季節。
盛りついた学生という名の獣たちが切磋琢磨でこしらえるのが彼らの生活習慣病のはずなのだが、どうやらアオイはその枠には当てはまらなかったようだ。
青春漫画のように告白したら実は両思いでした、なんて話は存在しない。
クラスにいるイケメンが全ての女子を所有しており、残った陽のグループがおこぼれと言う名の残りを殲滅。
アオイのような陰の者たちには搾りかすすら貰えないのが高校という名の縦社会。
社会的地位の全てが外見と頭脳で測られるこのクソッタレな世界で、そのどちらもを持ち合わせないごくごく普通の少年たちに人権はない。
法治国家が認めてもそんな物はまやかしである。
「もっとこう、放課後デートとかさ。かわいい彼女連れて遊びたい。ムフフな展開が欲しい。欲望が、頑張ってる俺に少しでも力を分けてくれれば──」
「何やってんの」
頭の上に乗せられた鞄に反応して振り返ると、そこには幼馴染とも言える腐れ縁の少女、鈴木千春があきれた顔で見下していた。
「26回目の失恋を経験してたところだ」
「……よく飽きないね、それ」
地面に倒れていた時についた土埃を払いながら立ち上がったアオイはその辺に転がっていた鞄を取っ手に足を引っ掛けてから蹴り上げ、空中で掴み取ると適当に引っ提げて校門へと足を向ける。
「お前はいいよなぁ、モテるんだから。昨日もどこぞのボウズに告白されたって聞いたぞ」
「野球部の山田くんね」
「そうそうソイツ。サウスポーの100キロ」
「そんな辺な情報よりも先に名前覚えててあげなよ。ひどい覚え方されてんじゃん」
もはや名前ですら無いが、どちらかというと相手の個人情報を持ってるだけ逆に怖い。
それならせめて名前だけ知ってるくらいに留めておけばと、千春は彼が女子から嫌われる要素の一端を垣間見たような気がして眉間に手を当てていた。
「まぁまぁ。お前はモテるんだからモテない悲しみを背負った俺の気持ちが分からないんだろうけど、その山田も振ったって聞いたぞ。俺の仲間を増やす気か?」
校門を通り抜けるあたりで後ろから付いてきているはずの千春にからかい混じりで声をかけると、視界の端に高速でブレる謎の物体が写ったと思えば、
「バーカ」
アオイの脳天に教材の入ったカバンがダイレクトアタック。
軽い脳震盪を起こして校門近くで吐きそうになっているアオイの足を蹴り飛ばす。
支えを失って地面に倒れる彼は走り去っていく千春が小さく見えなくなるのを感じながら、頭を押さえながら毒を吐く。
「何であんな暴力女がモテるんだよ。俺なら絶対にやだな」
校門近くでゲロっているアオイを置いて走り去っていった千春だが、信号機に捕まって足を止めざるを得なくなる。
肩で息をしながら赤らめた顔を隠すように鞄を両手で抱えると、
「私が何のために断ってるか、いい加減気付いてよ」
小さく誰にも聞こえない声で呟くと、信号が切り替わり次第、周りの人間に顔が見えないように俯いて走っていった。
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