サイボーグ・ながら・SOS

 たすくは自身がサイボーグにでもなってしまったかのように疲れをまったく感じなかった。いつまでも剣を振るっていられるような気がした。氷姫ひめの声はもうしない。でも、確かにこのもふもふの塊の向こうで助けを呼んでいた。


 物語はこの現実の世界か消える時、光の粒にしかならない。そこには毛も、血も、肉も。なにもかもが砂のように、灰のように、光の粒となってちらつきながら消えていく。それが黄昏色にその空間を染めるのは、黄昏時の物語と彼ら、いや自分たちが呼ばれる所以なのだろうなと佑は思った。


 この物語たちもきっと、好きでここにいるのではない。だれかに呼び出され、利用され、こんなことをしている。その命令を下した本人でさえこのもふもふの中へもぐりこんでしまって見分けがつかないのだけれど。どこかで息をひそめながら今起きていることを必死にどうにかしようとしている。そんな気がする。


 きっと佑がここに現れたこと自体が想定外のことだったのだ。それも、こうも簡単に物語を消し去っていく力があるとは思っていなかったのだろう。次から次へと現れるもふもふの着ぐるみたちはその対処に使っているに過ぎない。


 であれば、SOSをくれた氷姫もどうにかされる前だとそう信じるしかない。当面、そのどうにかする余裕がなかったはずだ。


 そう、無我夢中に佑は剣を振るい続ける。部屋中が黄昏時に染まりきるその時まで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る