フラッシュモブ・はみだし・腐っても

 まるでフラッシュモブのようにどこからともなく集まり続けている着ぐるみ集団の塊はどんどんと肥大化していく。それこそ、最初上に上がった時には見えていた入口らしき場所も、もふもふで埋め尽くされている。こんなにして、この中に氷姫ひめがいるのだとしてら、無事では済まない気がしてくる。


 でも、ちゃんと声はしたのだ。ここにいるし、息もできている。


 ここがどこだとか、どうしてここにいるとか、もうわけがわからないことだらけだけれど、たすくは自分が出来ることをやるだけだとすでに割り切っていた。


「もう。助けられない思いをするのはごめんだ」


 そう言葉にすることで感情に熱が入る。それと同時に力が湧いてくるのを感じる。それは筋力とか、膂力とかそういうものじゃない。使うのは物語の力での話。佑の力はコピー。物語の力をコピーできる。この場面で使うべきな力はひとりひとりのもふもふをどかしていける力。騎士のはみだしものが使っていたその剣筋だ。


 幾度となくその力を使おうと試したがうまくいかなかった。その結果が隆司りゅうじくんをさらわれたときの敗北だ。


『敗北を知ることも物語として大事な要素だとは思わないのか』


 その騎士が最後の戦いを前にして言っていた言葉が思い出される。確かに敗北を知った。そのことであなたの力まで使えるようになるなんて思いもしなかった。


 確かに大事な要素だった。今ならそう思う。そう思ってもあそこで負けるわけにはいかなかった。そうも思う。


 腐っても彼は騎士のはしくれだった。それだけは間違いないのかもしれない。佑は感傷に浸りながらも生み出した剣でもふもふを切り裂き始めた。

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