いまさら・小説家・宝くじ

「言いたい放題言いやがって。いまさら謝っても遅いからな。ドラゴン小僧」


 ぞろぞろと集まってくるきぐるみの集団で部屋は狭く感じる。それでも動き回ってお互いにぶつからない程度には間隔を取り続けているその動きから統率のとれたものを感じる。


 どうしていいのかわからない。それこそライオンさんが言うようにいまさらどうすればいいのだ。弾丸と言う名のたすくさんも消えてしまった。ここには敵だらけ。やる気満々のライオンさんと隆司りゅうじくん。五里霧中な地上からかけ離れたこの場所で自分がちっぽけな存在でしかないことを思い知らされる。


 ここにいるのだってたまたまいるだけで。宝くじに当たってしまったようなものだ。物語の力を使えなければここにいるどころか。この時代に生きていたのかもわからない人間だ。


「はっ。やるって言うなら協力してやる。この集団が相手ならちっとは俺の能力も役に立つだろう」


 永遠とわさんが隆司くんの隣に立つ。何か吹っ切れたようにたたずむその姿に氷姫ひめはドキッとする。なんで自分はそこにいないのかと。自分に問いかける。


 最初は自分のわがままで始まった佑さんと隆司くんの捜索だったはずだ。つとむさんも永遠さんもさみしそうにはしていたけれど、行動に移しはしていなかった。裏工作はしていたみたいだけれど。踏ん切りがつかなかったのを動かしたのは氷姫自身の思いだ。


 これが小説家の書いた話ならばひどいものだと思う。言い出しておいて肝心なところでなにもしない。なにかを成せるだけの力もない。ただわがままを言っているだけ。自分が望まない世界を壊して自分が望む世界に変えたいだけ。


 そんな登場人物に魅力があるのだろうか。


「私も。役に立たたないかもしれないけど」


 夏希なつきさんが永遠さんの後ろに隠れるようにして立つ。力が回復しきっていなくて喜美子きみこさんはいないままだ。


「暴れていいんでしょ。それなら得意だよ」


 楓さんはいつのまにか武器である包丁を構えている。


 なんでみんなそんなに覚悟が出来ているのだろう。言い出したわけでもないのに。巻き込まれてここにいるだけなのに。


「ほら。氷姫。武器をくれ」


 永遠さんがかけてくれる言葉に、すぐに反応が出来ない。なにが正解なのかわからないままだからだ。

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