生きた化石・正義の味方・生き残り

「安い挑発だな……。正義の味方気取りなんてしなければ、俺と戦うことになんてならなかったのにな。おっと、今更後悔しても遅いぜ。そっちが先に喧嘩売ってきたんだからな。覚悟はできてるんだろうな」


 組長が腰に身に着けていた刀を抜く。武器を持っているんて話は聞いていないけれど、これまでそんな相手に出会わなかっただけで割とみんな持っているものだとたすくさんが言っていたのを思い出す。


 対して永遠とわさんは拳一つだ。武器を使っているのも見たことがない。取り出す気配もなければそのあたり転がっているものを手にすることもしない。


 間合いが違いすぎる。組長はもう一歩前に出れば切り掛れそうな距離にいる。認知をズラすだけで永遠さんは避けられるとはいえ、果たしてそれが本当に通用するかどうかもわからない。本当の実力者には通用しないのではないかと悪いことばかり考えてしまう。


「なんだよその気迫。生きた化石かよ。物語に恵まれたのはそっちじゃないか」

「ふん。もともとそういう物語に生まれたのだ。恵まれたもなにもなかろう。そもそも、その中だからこそ生きるか死ぬかの境目を常にさまよっていたのだ。これくらい当然だ……さて。そろそろいいか?死ぬ準備はできたかな」

「ほざけ。生き残りに関しちゃだれよりも得意なんだよ。さっさと攻撃してきやがれっていうんだ」


 ごくりと自分のつばを飲む音がやけに響いくくらいシーンとした時間が流れた。それが一瞬だったのか、はたまた長い時間だったのか。氷姫ひめはあとから思い出しても、上手く思い出せない時間だった。

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