でクビ・クッキング・にも程がある

「あのー。ここでなにをしているんでしょうか。正規ルートで進んでもらえると助かるんですけど」

「ひぃぃぃっ!?」


 永遠とわさんが情けない声を出しながら飛び退いた。勢いそのままにファンシーな扉にぶつかった。


「ああ。壁を壊さないでください。私が器物破損でクビになってしまいます」


 わたわたと声をかけてきた人も慌て始めて氷姫ひめの周りは騒然となって落ち着きがなくなってしまう。お化け屋敷の中で響き渡り続ける悲鳴と叫びはあたりの他のお客さんを混乱の渦に飲み込んでしまっていないか不安になるくらいだ。


 しかし、声をかけてきた係員さんらしき人は永遠さんがぶつかった扉を壁とたしかに言った。しかしどう見てもそれは扉でしかなくてなんならその衝撃でその扉は開いてしまっている。その向こうに広がる草原を見てもなお係員は驚く素振りもない。


 語り部でないとこの扉は見えないのかもしれない。魔女へと繋がる扉は確かにあるのだ。


 しかし。


「あわぁわわわわ」


 もはや何に対して驚いているかわからない永遠さんは臆病にも程があると思う。今のうちに押し込んでしまったほうが解決は早いんじゃないだろうか。そう頭で考えるより先に身体が動いた。


「えぃ!」


 氷姫が押した勢いで永遠さんが扉の向こうへと倒れこむ。


「えっ。人が消えた……?うわぁあぁぁ!?」


 係員さんには悪いけど永遠さんや氷姫がそういったたぐいのものと思ってくれたほうが都合がいい。ぴょんと扉をまたぐように飛び越える。すると扉の向こうで走り去っていく係員さんが見えた。


 ごめんなさい。そう心のなかでつぶやくと転んだままの永遠さんに手を貸してあげる。ようやくあたりの状況を把握したのか永遠さんは立ち上がるとパンパンとズボンに付いたホコリを払う。


「ふぅ。無事に着いたようだな。あの煙突から煙が上がってる家がそうだよな。クッキング中かなにかか?とりあえず行こうぜ」


 大人の威厳とやらを見せようとしているのか、今更遅いような気もする。まあ、反論はせず大人しくその後に続いた。

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