の森・貴族・いじわる

「なんだこの森……」


 街中に現れたのは森だった。後ろを振り返るとそこも森。走ってきたはずの道路は見る影もなくなっている。


「これって。魔女の力か……」


 お化け屋敷での出来事にそっくりだ。しかしちょっとだけ場所が違うのは魔女の管轄が違うからなのか。


「いじわる少年もここにいるのか」


 だとしたら魔女の弟子とかなのか。あの双子の魔法使いと関係しているのか。だとすれば戦わなければならない可能性も高い。あの頃に比べて随分と力はつけた。でも、魔女の力に届く気はしない。


「はぁ。あの子が連れてきちゃったのね。まったく。近くにいるからってほっとけって行ったのに。仕方ないわねぇ」


 その声には聞き覚えがあった。


隆司りゅうじくんはどこだ」


 たすくは凄んだ気がしたのだけれど、それを魔女は一切気にした様子もなく肩をすくめるだけだ。


「そこの家でゆっくりしてるわよ。むしろ美味しいものを食べらて満足してるんじゃないのかな」


 そんなことを鵜呑みにはできない。


「でも返してもらう。隆司くんと話をさせてくれ」


 魔女の横を通って隆司くんがいるという家に向かおうとして、魔女の手に阻まれた。


「苦労して連れてきた竜の子よ。簡単に手放すわけないじゃない。神永の手の中に置いておくには巨大すぎる力よ」

「なんのことだかわからないな。俺は隆司くんに会いたいだけだ」

「あら。もしかして、事情を知らない純粋な子だったりするの?だったら少しだけ好感持てちゃうじゃない。でも。残念ね。純粋な気持ちだけで首をツッコんじゃいけない大人の世界っていうのもあるのよ」


 魔女の手が赤く染め上がり、炎が立ち上る。危険を察知して後ろに飛び退きながら魔法使いに転職する。


「あら。私と魔法対決しようだなんて、随分と可愛げがあるじゃない」


 そんな余裕はこちらにはないよ。そう言葉にする間もなく戦いの火蓋は落とされた。

 

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