お使い・脱税・現役

「あー。なるほどー。おいボーイ。プリンセスは私が連れて行くからここは任せた。ちょっとやることを思い出した。あとはよろしく」


 まるでお使いを思い出したように急にそういうと走り出した脚本家をたすくはただ見送る。どちらかといえば好都合だ。あんまり便利な能力だと思われても困る。氷姫ひめなんかにもできれば見られたくない。いや、思い出させたくないのだ。


 ふむ。試しに使ってみるか。そう佑はイメージを変える。氷漬けの少女。今はああやって元気に走り回っている少女が自らを封印していた力。


「氷姫。力を借りるよ」


 そう、自分の罪の意識を消すために自分にしか聞こえない謝罪を入れる。


「なにをぶつぶつ言ってんだよ。こっちは脱税疑惑まで持たれて、必死につけてた家計簿を燃やされて、頭にきてんだよ」


 火を振り払いながら近寄ってくるのを、冷静に見つめる脱税と戦う武闘派の現役高校生の反抗期の主人公なんて変わった物語だな。なんて、考えてしまう。でも、それも全部封印してしまおう。


「眠れ。永久に」


 体の芯から急激に冷えていくのがわかる。能力の代償だろうか。雪女とかそのあたりが氷姫の物語の由来なのかもしれない。


 その冷え込みが体から放出されていくのも感じる。それが体の中から出て行ったのを感じるのと同時に目の前の彼が氷漬けになっていた。


「はは。こりゃ強力な能力だな。相手はても足も出ないじゃないか」


 氷の中の彼は光の粒になって来ていく。世界が修正してしまったのだろう。これで、幽霊騒ぎは終わりなのか。でも、彼がどうしてここに現れたのかが気になる。


「おー。スゲー。なんだそれ。そんな魔法まで使えるのか」


 脚本家がすぐそばに戻ってきているのに気が付かなかった。

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