莫大な遺産・わっしょい・鍋

 じっとしてても何かが起きることもなく、時間だけが過ぎていく。幽霊が音が出るって言っていたから待っていればどうにか来づけるはずだと思ったのだけれど。


「ふむ。なにも起きないな」


 先にしびれを切らしたのは脚本家だじっとしてろと言っておきなら、髪の毛を書きながらこちらへ向かってきた。


「予定と違う。今頃、幽霊がここでどんちゃん、わっしょい、お祭り騒ぎをしているはずだったのだけれどな」


 そんなに本当のお祭りみたいなことはないだろう。でも、たしかにわかりやすい何かを期待していたのも確かだ。


「ほんとは幽霊なんていないのかもしれませんよ。だれかがたまたま練習していただけとか。こうやって忍び込めるんだからそうだったとしてもおかしくないはずです」


 そうであるなら以来はこれで終了。隆司りゅうじくんと氷姫ひめがいるホテルに帰ってゆっくり休める。しかし……。


「それを確かめるためにも帰るわけにはいかないなぁ」


 そうですよね。と表情が崩れるのをこらえながら返事をする。急に寒気がして、鍋でも突きたくなる。つとむさんが帰ってくるまでにはしばらく期間がある。明日は書店でゆっくり鍋にでもしようかなと、表情が緩んだときだ。


「おい。なんか音がしないか?」


 そう言われて耳をすます。


 ぽちゃん。


 水滴が落ちる音がする。噂とはかけ離れた音に逃げ出したくなるのをこらえる。もっと物語が出てきて、それを退治するんじゃなかったのか。こんな雰囲気がある、こんなことになるんて想定の範囲外だ。


「ふむ。まさかほんとに出るとはこれは莫大な遺産になるぞ」


 脚本家がなぜだかよろこんでいる。


「これは意外な展開だな。さあ。ボーイ。正体を確かめにいくぞ」


 意気揚々と飛び出していってしまう。一人残される方が怖くて、しぶしぶあとをついていった。

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