ミラクル・宣言・どんぐり

 大人しく隆司りゅうじくんと氷姫ひめがお寝たのを確認するとそろりと部屋を出る。子どもは寝る時間だ。しかし劇場でリハーサルが続いていると脚本家から聞いているので、それが終わる前に入り込んでおく必要がある。


「さて、行くかね」


 ホテルの入口で待機していた脚本家と合流する。


「ん。まあいいか」

「どうしたんです?」


 脚本家が一瞬立ち止まったけれど、すぐにあるき出した。


「いや、こっちの話だよ。ボーイが気にすることじゃない」


 気になることを宣言して、先に進み始める。


「っというか一緒に行くんですね。てっきりひとりで言ってこいと言われるんだと思ってました」

「ほう。意外なのはこちらだがね。こいうのは大人の責任というものがある。単にお願いして放置なんてことはできないよ。その様子だと神永かみながはそのあたりの責任を放棄しているようだけれどな」


 そう言われるとつとむさんはお願いしっぱなしな気がするけれど。それはそれで、信頼されているものだと思っていた。本当にピンチのときはちゃんと来てくれたしとも思う。


「まあ、あの神永からクエストを受注しているだけでとんだミラクルなんだがな。私だってもう数年単位で顔を見ていない。今回は本当に久しぶりだったんだけれどな。それも叶わなかったわけだ」


 そういえば勉さんとの関係性を聞いていなかった。もしかしたら。


「昔付き合ってたりとかしたんですか」


 キョトンとする脚本家にあてが外れたと気づく。


「ボーイは面白いことを言うな。神永は私よりずっと年上の下手したらおじいいちゃんだぞ。見た目はとても若いけどな」


 こんどはたすくがキョトンとする番だった。言っている意味がわからない。言葉通りに捉えると頭が混乱しそうなので、考えるのをやめる。


「どんぐりなんて呼ばれ方をして、ひどく傷ついたりもしたけれど。まあ、優しい人だったよ」


 勉さんのことを思い出しているのか複雑な表情に変化する。きっと色々なことがあったのだろう。そうこうしている間に劇場にたどり着いていた。

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