新聞・出戻り・抱きしめて
「物語がこの世界にはびこり始めたのはきっと印刷技術の向上と同時期なのだと思っている。もちろん名前のない物語なんかはたくさんあっただろう。物語の力が人を神隠しや魔女や妖怪などを産んだのは間違いない。でも、こうやって人類の一部が共通認識として物語の力を感じ始めたのはそれこそ印刷技術のおかげだと言っても良い。新聞に雑誌。手軽に文字が出回るようになったのは人類の歴史から見たらほんの最近のことだ」
それはわかる話だ。それまでは触れることができなかったものだ。ひとりひとりが抱えるものは深く重かったかも知れないがそれでも今の社会が抱える情報量と比べれば大したことがないはずで。
「そのころに巻き込まれた少女がいたんだ」
そう言って見上げる先には氷の中のお姫様がいて。もしかしてと思うしかない。いくらなんでもそんな昔からこれは存在しているというのかと。
「物語が好きな普通の女の子だった。夢見る少女とでも言うのか、いつも空想の中に身をおいていて、現実の世界にはあんまり興味がなかったんだな。いつも縁側で本を片手にのんびりと過ごしていた」
それがどうなるとこうなるのか。話を遮るわけにもいかず。ただただうなずくことしかできない。
「そんなある日だ。自分にしか見えない存在に気がついたんだ。いつの間にかそこにいて、いつの間にか仲良くなっていた。それをよく知っているはずなのに思い出せず。まったく知らないはずなのに懐かしい。そんな存在」
「それって……」
「おそらく少女が生み出した物語の登場人物だ。彼女はサモナーだったんだな。少女はその登場人物に名前をつけ、一緒に過ごした。楽しいことは2倍に悲しいことは半分にってやつだな。一緒になってはしゃいで、抱きしめて泣いて。そうやって過ごしていた」
それは幸せな日々だったのだろうと思う。そう語る編集長が優しそうな口調なのもきっとあるのだろう。
「それは突然崩れ去った。父の姉が出戻りしたのが原因だった。連れてきた子どももだな。幸せだった家に暗雲が立ち込み始めていた。でかい面をし始めたかと思ったら少女も含めてまるで奴隷のように扱い始めたのだ。もともとそういう気質だったらしくてな。嫁に出ていったことを少女の父も安心を覚えていたくらいだ」
そこから先を聞くのが少し怖くなる。編集長の顔もこわばっているのだ。
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