塾・おばさん・人食い

 崩れ行く、ホテルの外壁を眺めながら思い出のような夢のような記憶の氾濫から現実に戻りつつあった。


 何がどうなったか確認しようもホコリが舞い上がっていて見えないし、耳も轟音にやられてしまったのかよく聞こえない。


 しかし、光は空いた穴から差し込んで入る。それは黄昏時の色をしていて、時間が経過しているのがわかる。そして、それは良くないことを意味していた。


「よくない。本当によくない。塾帰りの子どもたちもちょうどこの下を歩いている時間だ。そこに罪の意識はないのかな」


 徐々に聞こえてきた彼の声に自然と手が足が心が怯える。確かに直撃したはずだ。それでも何事もなかったかのようにそこにいる。


「ほら。そこに買い物帰りのおばさんもいる。みんな悲鳴を上げているよ。この状況がこちらがわとそちらがわどう違うと言うのかね」


 物語の力で起きた影響はある程度は世界が修復してくれる。そう安易に考えた。それでも、実際に起きていることを想像して背筋に悪寒が走る。


「ち、違うさ。世界は壊れないし、黄昏時は終わる。絶対に違う」

「君がいくらそいう言い張っても、事実は変わらんさ。変わらないからこそよりたちが悪い。人食いクマのほうが、生命を循環させている以上、自然とも言える。このまま不自然な世界が続くならそれは罪だよ。それは壊れているのと一緒だ」


 そんなわけがないと叫びたかったが、叫ぶことができない。よく意味がわからないのもあるが、なんとなくの勢いで説得されかかっているからか。


「さ、でも。もう会話も終わりでしょう。やることはわかっているのだろう?」


 彼はそう言うとどこからともなく西洋剣を取り出す。格好も甲冑姿に変わっていく。間違いなく物語の力でエクスカリバーの由来でもありそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る