放課後・キラキラ・先輩

 見覚えのないのにどこか懐かしい光景に、自分はどうなってしまったのかとたすくは自問自答する。

 放課後の学校は夕焼けに染まっていて、物語の力のことを知ってからは不吉の象徴みたいな時間帯になってしまったそれは、きれいなグラデーションに染まっていた。


 走馬灯とでも言うのか。昔の記憶。それも、九重佑ここのえたすくになる前の記憶。そうなるとそれは物語の中の話なのだけれど、そうとは思えないほどリアルに感じるのはこのシーンが物語の中でも重要なシーンだからかも知れない。


「先輩!どうしたんですか。そんなボーッとして」


 そう。この声を今、話しかけられているくらいリアルに聞こえる。


「先輩ってば」


 えっ。佑は我ながら間抜けな声を出してしまったものだと思う。でもそれくらいには驚いた。


「帰りますよ。そんなにたそがれてなにか悩みでもあったんですか」


 キラキラしている後輩はまるで漫画みたいだ。いや、漫画なんだろうけど。きっと作品に出てくる登場人物なんだろう。


「あっ。いや。俺どうしてこんなところにいるんだろうなって急に思って」


 それはこの世界のことか。それとも、現実世界のことか。自分でもわからなかった。


「何言ってるんですか?頭でも打ちました?それか妙なものでも食べました?」


 心配してるのか小馬鹿にしてるのか。笑いながら問いかけてくる姿にドキッとしたりもする。


「ここは先輩の居場所ですよ。それは間違いないです」


 急に真剣な顔になる後輩に、そういうシーンなのかとなんとなくがってんがいく。


「そっか。でもやっぱりここはもう違うんだと思う。それくらい向こうで生きてしまったから。もう。ここが物語の世界だと知ってしまったから」


 後輩は不思議そうな顔をしている。頭がおかしくなったと思われても仕方がない。


「だから戻るよ。やらなきゃいけないことも残ってる」

「そうですか。仕方ないですね。先輩ってば言い出したら聞かないから」


 それは物語としてはおかしなくらい素直に受け入れてくれた。佑が現実世界に定着したことで元いた物語にも影響が出ているのかも。でも、そんなこと知ることはできないのだ。それはなんとなくわかった。


「じゃあ。行くよ」

「はい。また帰ってきてください」


 これは黄昏時が見せた一瞬の幻なのだ。そう思いながら目をぐっと閉じた。

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