はらぺこ・忘れられない・記念日

「ねー。はらぺこだよー」


 久しぶりに聞いた気がする隆司りゅうじくんの声が非常に懐かしく、安心させてくれる。


「はいはい。ご飯にしようね。たすくくんも食べてくだろ?そっちの君たちも」

「えっ。いいんですか!?わーい」

「えっ。俺もっすか?」


 夏希なつきはともかくとして、泥棒も一緒にとはいかがなものか。つとむさんがそれをわかっているのかわかっていないのか知ることはできないがこれまでのことを考えると知らないとは考えにくい。


「あと、そっちの君もね」


 陰に隠れるようにしていた喜美子きみこを目ざとく見つけると勉さんは優しく微笑んだ。しかし、それが怖くもある。実際、喜美子も夏希に近寄って、あの人怖いとぼそっと呟いたりもしている。


「今日はなにー?」

「大勢いるからカレーだよ。今お皿によそうからねちょっとまってて」


 そしてその証拠とも言わんばかりに人数分作っている辺り、どこまで見えているのだろうと本気で考えてしまう。この人ならば今日のあの不可解な出来事の正体も知っている様な気がしてならない。なんならこの人が全部を仕掛けたのだと思ったりもしてしまう。


「で、無事に決勝のステージに残れたみたいでなによりだね。ずいぶんと脱落した人が多かったから、ちょっとだけ心配してたんだよ」

「ちょ、ちょっと。一体なにを知ってるっていうんですか。知ってるなら今日のあれがなんなのか説明してくださいよ」

「そうだね。まあ、カレーを食べながらでいいじゃないか。すぐ準備するからちょっとまっててよ」


 カレー。カレー。とひとりテンションが高い隆司くんをよそにほかのみんなはどうしていいかわからず戸惑っているみたいだ。

 それくらい今日の出来事は衝撃的だった。記念日と言ってもいい。忘れられない一日と言う点では一緒だ。


「さ、みんなちゃんと座ってるね。たべようか」

「いっただきまーす!」


 隆司くんに続いてほかの人も小さくいただきますと呟いてからスプーンを手に取った。

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