プンプン・食べたい・人間コンテスト

「楽しんでいただいていますか?」


 聞き覚えのある声に汗が吹き出すのをたすくは感じていた。


「いったいなんのつもりだ。これはいったいなんなんだ!」


 姿は見えないけれど、声のするほうに問いかける。そうしなくてはならないくらい、焦っているのだ。少しでも打開策が見つかるのならそれにすがりたいと思った。


「最終予選だっと言ったはずですが?語り部による人間コンテストとでも言うべきステージに立つ物語を選ぶためのものですよ」


 声だけでも不気味さが押し付けられているようなそんな圧を感じる。


「はぁ。なにそれプンプンなんですけど」


 いつの間にか戻ってきていた夏希なつきが文句を言っているがそんな場合じゃないのもある。


「姿くらいあらわしなさいよ!ずるいじゃない」


 そんな風に言っても無駄なのはよく分かる。


「決勝に残れたら、お会いしましょう。それではまた」

「ちょっと、どうやれば決勝に残れるのよっ。っていうかこの状況どうすればいいのよー」


 そんな叫びに帰ってくる言葉はなくて代わりにあるのは口裂け女の姿だけだった。


「こんどは口裂け女。もうやんなっちゃうんだけど。佑任せた」


 夏希がすねたようにそっぽを向いてしまう。


「食べたい。もっと肉を……」


 口裂け女がおぞましい声を発している。口裂け女ってそんな設定だったっけ、そう思わないでもないがどこからともなく設定が生えてきているのだろう。それくらい今、この世界は混沌としている。

 あらゆる物語が混ざってしまってもおかしくない。


「これのなにが予選だって言うんだ。こんなことがそんな感覚で行われていいっていうのか」

「いいわけないけど、そんなこと言ったってなんとかするしかないじゃない。なんとかしてよ」


 夏希の言うとおりなのだ。やるしかない。それは間違いなかった。

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