夫婦・再生工場・終わらない

「これいつ終わるの?」


 ホールで夏希なつきが大勢の人が流れて行くのを眺めながら呟いた。それはそうでアイドル衣装泥棒の顔をひたすらに探しているだけだからだ。終わらない作業ほど苦痛を伴うものはない。


「そろそろ、日が落ちるよ。黄昏時になるとなにかが始まるんでしょ」


 見知らぬおじさんが言うことだ。何が起こるのかなんて分かるはずもなく、そもそも成果を見せろって七日間戦争についての成果なのだろうか。夏希のレベルは上がったみたいだけれどそれで十分なのだろうか。


「昨日は本番中だったしな。もしかしたらもう逃げちゃったのかもしれない」


 公演が終わり、人々が出ていくのをただ眺めながらそう思う。今日は何もしない可能性だって高い。昨日、たすくに見つかるというミスがあったのだ。連日でそんなリスクを追う必要があるほどアイドル衣装を求めているとも思えない。しかも彼は語り部だ。より一層、意味がわからない。


「えー。じゃあ、一日なにしてたっていうのよ私達。損してるだけじゃない。どうしてくれるのよ。喜美子きみこも呼びたいのに声聞こえてこないし」

「あっ。サモナーってそういう感じなんだ?なんか夫婦みたいに繋がってるんだな」

「んー。なんか喜美子は特別みたいだよ。そもそも召喚されてる状態で話ができるの珍しいし。まあ、それも全部使う物語に依存するみたいだけど」


 つとむさんが物語のエネルギーについてなんか話していたけれどそれと関係あるのだろうか。


「今はねなんか再生工場みたいなとこにいるらしいいよ。力を取り戻してるんだって」


 はあ。としか感想が出てこなくて話が詰まってしまった。一日中ふたりでこうやってくだらないことを話し続けているのだから話題も尽きる。


「さて。ゲームスタートだよ」


 不意にどこからともなく声が聞こえる。慌てて外を見ていると日が沈んで辺は黄昏色に染まっていた。

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