センチメンタル・参上!・ボーイ

「いないな」

「いないね。っていくか私たちは犯人の顔知らないんだけど。アイドルに変身した男なんだよね?そんなの見つかるの?」


 そう言われてみたから気が付いた。防犯カメラの映像は不鮮明で顔まではわからなかった。というかそれほど騒ぎになっていないので、映像自体出回らなかったのだ。言われてから考えるも衣装によって違うアイドルになったりする能力だったりしたらもうどうしようもない。


「衣装盗むかもしれないから楽屋周りを張ろう」

「そんな単純なのかな。ま、ほかに当てがないんだからしょうがないよね。私もこれから先、それに怯えるのも嫌だしね」


 夏希なつきも当事者であることも間違いないのだ。不安に感じるのも無理はない。


「なんか、ここのホール思い出たくさんあったのにそれを汚されているみたいでいやなんだ」


 センチメンタルな感情に包まれているのか、見たことのない顔をしているのを直視できない。アイドルだけあって顔は整っているのだ。それが複雑な表情をされると映える。


「参上!たぁ!」


 隆司りゅうじくんくらいの少年がお父さんと遊んでいる。ヒーローごっこでもやっているのだろうが、なんだか場違いな気がして気になってしまった。


「どうしたの?」

「いや、なんだかあの光景が気になって」

「あの親子?ふぅん?普通の親子じゃない」


 そうなんだと思うのだけれど。どうしてか目が離せないでいる。


「ふむ。あながち見当違いなことを言っているわけじゃないように見えるが?」


 喜美子きみこが珍しく口をはさむ。しかし一体どういう意味だろう。


「なあ。たすく。私のことを物語だと思ったことはあるか?」


 妙な質問だ。そりゃ、召喚された物語の登場人物だと紹介されたのだからそう思うけれど。


「へ?そういうこと?」

「なによ。どういうことよ」

「多分なんだけど」


 いや、でもこういった場合どうするのが正解なのだろう。こんなことならつとむさんに聞いておけばよかったと思った。


「なんなのよ。さっきからふたりでわかっちゃったふりして」


 ふりじゃないのだけれど。どう説明していいかもわからない。いや、説明はできるけれど。どうしてそうなっているかは分からない。


「あのボーイたちはおそらく物語だよ夏希」


 喜美子が代わりに言ってくれた。でも、だからどうなのだと問われても答えられそうもなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る