取ってつけたような・アブノーマル・サイコパス

「それで今日はどうするんだよ。と言うかレベルって上がってるのか?」


 そう前をどこへ行くのかも分からず進み続けている夏希なつきに声を掛ける。ふとその足を止めて振り返る夏希の顔の後ろからちょうど朝日がさしたばかりの陽光が差し込んでちょっぴりと眩しくて手をかざしてそれを遮る。まるで夏希自身が眩しく感じたのはちょっとた気のせいだと思うのだけれど、心臓が早くなるのが自分でもわかってしまったそれを否定する。


「上がってるわよ。喜美子がちゃんと存在できるようになってきたし、能力もそろそろ使えそうなの」


 仕組みは分からないがどうやら順調に成長しているらしい。役に立てているならそれはうれしいものだ。


「ね。ところで普通に出歩いてるけど、ニュースで話題になったんじゃなかったっけ?」

「そうなんだけどね。昨日みたいな恰好はしてないし、なんだかそんなに真剣に探している様子もないんだ。語り部の存在を隠すために世界が修正しているみたいなんだけど。こうお効果的だと少しだけゾッとするね」

「そんな取ってつけたように驚かなくても。とうぜんこれまでもそうやって世界は作られているのよ。語り部が都合のようになっているのはただの偶然で、世界は自らを保とうと必死。しかし、あなたがあんなにアブノーマルな趣味を持っているなんて思わなかった。私の衣装を狙ったりしてないでしょうね?」


 冗談なのだろうがシャレになっていない。こっちとしては昨日のショックはまだ引きずっているのだ。あんなふうに扱われるなてはめられたとは言えきついものがある。


「ま、冗談よ。それにしても衣装を盗んでそれを使って物語の力を使うなんて随分とサイコパスなやつねそいつ。早いところ懲らしめたほうがこちらとしても安心なのだけれど。なんか手掛かりはないの?今日はそっちを優先しましょ」


 そうしてくれるのは助かるのだけれど、割と厄介な相手だと思うし、そもそも手掛かりがない。どう説明しようか悩んでいると喜美子きみこが口を開いた。


「目的がアイドルなら今日もホールにいるんじゃないか?」


 それは至極まっとうな意見だった。

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