幻の・頑固親父・大きく分けると

「あれは何だったんでしょう?」


 明け方見ていたであろう夢の話をつとむさんに相談した。そうはいってもと難しい顔をする勉さんに困らせるつもりはなかったのだと弁解したいところだけれど、そうしたところで自分の心を落ち着かせることしかできないのだからやるべきではない。真剣に考えてくれている勉さんにそれこそ失礼だ。


たすくくんの存在自体が珍しいことだからね。前例がなさすぎてはっきりとしたことは言えないし、これは語り部が長い年月でなんとなくわかってきたことなだけど、物語は自分たちの世界を構築するんだ」

「世界を構築?作者じゃなくて物語自身がですか?」

「そうみたい。佑くんの話にあった話が原作にはない。でも設定としてはあるのかもしれない。ただ、それでもその設定が細かく描写されているわけじゃないとすると、それが夢で実際にあったことのように感じるのはやっぱり妙だ。となると後は、物語自身が自らを補完しているに違いない。実際に佑くんみたいな物語からの話を照合するとそうなのではないのかと考えられているのが最近だね。ただ、どんな物語でもと言うわけではない。多くの人に認知されて、想像されているかによる。ただその場合でも想像そのものが物語の世界になるわけではなくその想像エネルギーを利用して世界が自らを構築していく」

「たくさん二次創作が生まれれば、世界が勝手にその養分を使ってはっきりしたものになっていくってことです?」


 わかったようなわからないような、もともと物語でしかないのに幻の存在なのに構築するとは。


「しかも大きく分けると二種類に分類される」

「はあ」


 まだあるのかと思ってついため息が出てしまった。しかし勉さんはそれを気にした様子もない。


「物語の登場人物がそれを認識している物語と、してない物語だ」

「ん?どういうことです?」

「登場人物が自分は物語だと、こちらの世界に現れる前から認識していることがあるんだ。逆にこの前の名前のない物語なんかは、ほぼ確実に認識していない。この世界が自分の世界だと言わんばかりに活動する。でも認識している物語の登場人物はそれなりにこの世界になじむんだ。ちなみに佑くんは認識してなかったね」


 難しい話過ぎてついていけない。夏希なつきとの約束もあるので黄昏書店を話を切り上げて黄昏書店を出ていく。それを勉さんは特に何も言わずにじっとこちらを見ていた。どうやら話を切り上げられたのが気に食わなかったらしい。頑固親父か。そう心の中でつぶやいた。

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