ちいさな・はガチ・全治三か月

 アイドルなんて興味もなくて調べたことなかったのだけど、ネットの海に相談したらあまりに多く返ってくるその返事に対応できなくてそっとブラウザのページを閉じた。


「調べてもよくわからないから来てみたものの。大きいんだなホールって」


 地元のことながら一度も来たことがないその場所はアイドルが多く集まるイベントからなのか、ずいぶんと人であふれていた。こんな場所で自分たちの力を密かに使えばその力が定着するのもうなずけるのだけれど、こんなに大掛かりなことをしないと物語の力が上昇しないのもいかがなものなのか。


 七日間戦争とこのイベント。どちらが発端なのか分からないけれど、このイベントがつながっていることは間違いなさそうだ。そのことはポスターに小さく描かれた協賛の所に世界図書機構の文字からも察することができる。


「ねえ。あんた参加者だよね」


 ポスターを見ていたら突然後ろから声を掛けられて驚いた。警戒はしていたはずなのにその気配に気づけなかったのもだし、こんな大勢の中で自分を見ている人なんていないとも思っていた。


「ちいさなイベントの割には実力者が多くいるからこのイベント好きなんだけど。その中でも君は随分と目立っているみたいだね。よかったら話をしないかい?」


 なんのことだか分からない。目立っている?そんな自覚は自分にはない。


「人違いじゃないですか?」


 顔を見せればそう納得すると思った。でも相手の反応はちっとも想像通りではなくて。


「えっ。お前、仙道せんどうか?なんでこんなところで……いや、そもそもなんでそんな普通に……」


 人違い。でもそんな雰囲気でもなさそうだ。目の前の相手は間違いなく、たすくのことを仙道と呼ばれる誰かだと思っている。


「それはガチで言ってるんですか?僕の事を知っていると?」


 自分の感情が抑えられなくなる。全てを知りたくて衝動に駆られる。でもせっかく掴んだチャンスだ慎重にいかなくてはならないのも確かだ。


「おっと。こちらから話しかけて置いて申し訳ないがどうやら人違いだったみたいだ。申し訳ないね」


 間を割って入ってきたのは長身の男性だ。雰囲気がつとむさんに似ていて無意識に言っていることを信じたくなる。


「仙道君は全治三か月で入院しているはずだろ。こんなところにいる訳ないじゃないか。いくよ、ほむら

「ああ。わかったよ。すまなかったな。ずいぶんと知り合いに似ていたんで取り乱してしまった」


 このまま逃していいのか。そんな不安があるが、人違いだと言い張るふたりにこれ以上どう問い詰めていいのか分からなかった。


 ふたりが去っていくのを見送った。ただ、佑のことを参加者と呼んだ。目立っているとも。それは人違いじゃなさそうだった。そのことにきっと意味はある。そしてそれは七日間戦争にも関係がある。


 ならば事実を確認するタイミングはきっとある。そう確信していた。

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