フルーツ・ロス・はつらいよ

「ねー。ロス行きたいー。連れてってー」

「七日間戦争中に行けるわけない。無事に生き残れたらだ」

「そんな話してないで手伝ってくれてもいいだろ」


 目の前から飛んでくるんはフルーツの数々だ。それもぜんぶ物語の力だというのけれど信じられはしない。アイドルが力を持つってこういうことなのかと思わないでもない。


 フルーツの曲を歌っていて、それのプロモーションビデオでフルーツが飛び交っているからといってそれを実際に物理攻撃に使ってくるなんてことだれが想像するものか。


 柔らかいフルーツはまだいい。問題なのは硬いやつだ。メロンにスイカにドリアン、特にパイナップルなんかは痛いのも加わってろくなことにはならない。


 それをかわすのも精一杯なのだけれど、問題はそのかわした先だ。


「いっくよー」


 可愛い顔して元気に踊って歌っているアイドルに攻撃なんて仕掛けられない。どうしたって気が引けてしまうし、罪悪感が生まれる。

 だから動きは止めるので攻撃くらいはふたりにしてもらいたいのだけれど。


「いやよ。サモナーに攻撃能力はないの」

「私もだ。召喚されたからとって力は普通の人間と変わらない。いたいのはいだいしな」


 まったくもって役に立ちそうにない。そんなんでレベルは上がるのだろうか、と疑問に思わなくもない。


 完全にこき使われるために雇われたのがわかってしまって、ため息が漏れる。男はつらいよと言いたくは無いけれど、言ってしまおうかという気にもなる。


「いてっ」


 硬い何かが頭に当たって。声が出た。それくらいにはダメージはないのだけれど。さて、どうしたものか。考えあぐねても時間ばかり過ぎていってしまいそうだった。

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