リサイクル・ぼくの・田中

 随分と遅くなってしまったのは学校の委員長の仕事で先生の手伝いをしていたからだ。そうしている間に友人の田中はさっさと帰ってしまっていたようで、いつもは一緒に帰っているのに薄情なやつだと思う。


 夕方の雰囲気が漂っている。一番わかり易いのは空の色だろうか。昼間ほど透明感はなく、夜ほど不穏感もない。神秘的なものを感じる。だから今時間は好きだったりもする。帰宅時間とこの時間が重なるとラッキーと思えたりもする。


 それでも今日はなんだかいつもと様子が違う気がした。辺に人の気配が少ない気がするのだ。いつもならこの時間だったら数人の人とすれ違うことがるくらいのイメージだったのだけれど、おかしなくらい人がいない。


 リサイクルショップの前を通り過ぎた時のその異変は確信へと変わっていった。シャッターがしまっているのを初めてみたからだ。


 おっちゃんがいつも暇そうにタバコを吸いながら店の軒先に座っているのを見るのが毎日のことだったのだ。病気にでもなってしまったのだろうかと、不安にもなったのだけど、どうやら違うようにも思える。


 ぼくのかんがえた最強モンスターみたいな落書きが絵が描かれたそのシャッターには張り紙のひとつもない。


 不穏な空気をそのままに目の前から誰かが近づいてくるのに気がつく。


 やっと人影を発見できてホッとするかと思いきや、不安が膨張しているのが身体が震えて教えてくれる。


 逃げなきゃと思えば思うほど身体が固く固まってしまって動けない。


 大きなマスクをした黒髪の女性だと判別できるようになるほど近づいてきているのに、足は相変わらず動かない。


「ねえ。私、キレイ?」


 か細い声で質問してくる。なんかそんな怖い話があったような気がしたけど思い出せない。


「き、キレイだと思います」


 間違いなくきれいなのでそう答えた。すると彼女は手をマスクに掛け、勢いよく外した。


「これでも?」


 叫んでいるのが自分だと認識できなかった。大きく裂けた口に食べられそうな恐怖を覚える。


 足は動かないまま。叫び続ける。それでも誰ひとりとして駆けつけてくることはなく、虚しく響き続ける。


「ちゃんと褒めてよ」


 その言葉を最期に意識が飛んだ。

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